第10回システムバイオロジー研究会


2006年3月30日(木)13:00-18:00
早稲田大学理工学部(大久保キャンパス)62W号館 1階 大会議室


 近年,生物システム解析の方向性として,従来の観察・解析による理解 に加 え,「創りながら理解する」構成生物学・合成生物学(synthetic biology/design biology)という流れが一部でクローズアップされつつありま す。これには,酵素学・生化学に代表されるような生命機能を担う分子機能の in vitro再構成に加え,コンピューターシミュレーションを補完するよう な 人工遺伝子・蛋白質ネットワークのシステム設計などが含まれます。その延長 線上には,「wetな素材をもとに,人工細胞を創っていこう」という挑戦的・ 野心的な試みも垣間見えてきており,水面下で(?)国内の若手でマジメに検 討する動きもはじまっています。しかし,「創りながら生物を理解する」とい うことは一体どのようなことなのでしょうか? 従来のアプローチと何が違 い,どんな展望があるのでしょうか。また,そこに何か問題はないのでしょう か。
   招待講演では,東工大の木賀さんに国内外のsynthetic biologyの現状と独 自の人工遺伝子発現ネットワークのデザインについて,東大の竹内さんには超 微細加工技術MEMS(Micro Electro Mechanical System)を駆使したマイクロ デバイスを用いた「見て楽しい生命科学研究」の最前線についてお話いただき ます。

世話人 システムバイオロジー研究会 運営委員 岩崎秀雄


スケジュールの予定
1. 話題提供
13:00-13:45 招待講演1
木賀大介 
(東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻)
「試験管内で自律的に動作する人工遺伝子回路の構築」

 人工生体高分子や人工生体高分子システムを構築して解析することを通じ て、生体高分子やこれらが構築するシステムの本質を追求する構成的アプロー チが、生物学に生まれつつある。人工生体高分子を得るためには、天然の生体 高分子を改変するだけでなく、天然の生体高分子とは異なる進化的ルーツを持 つRNAを創出する試験管内進化までもが行われている。一方、発表者らも行っ た遺伝暗号表の拡張や、”大腸菌フォトリソグラフィー”など、天然の生体高 分子システムを改変したシステムを構築することも最近では行われてきてい る。
 本研究では、さらなる構成的アプローチの進展に必要とされる、天然とは異 なるルーツを持つ生体高分子システムの構築を試みた。このシステムは遺伝子 発現制御人工ネットワークであり、特定の配列を持つ核酸によって転写が活性 化される人工遺伝子スイッチの組み合わせによって構築されている。タンパク 質の結合によって発現が活性化する天然の遺伝子スイッチが構成するネットワ ークとは異なり、このネットワークではあるスイッチの出力RNA分子を、翻訳 過程なしに直接次のスイッチの活性化分子とすることができる。それぞれの反 応は、入出力の対応関係を記したDNA、逆転写酵素、RNaseH、T7 RNA polymeraseの相互作用によって動作する。さらに個々のスイッチにおいて、入 力と出力の核酸の配列の対応関係を自由に設定できるため、スイッチを組み合 わせたシステムのデザインも容易である。結果として、あらかじめ定めた2つ のmRNAが共存したときにのみ任意の配列を持つ出力RNAを生産するシステム が、一本の試験管内にて等温度条件下で自律的に動作する形で実現された。さ らに、出力RNAの生産を蛍光の増加としてリアルタイムに検出することを、モ レキュラービーコンを利用して可能にした。
 本研究の至近な応用としては、テーラーメイド医療の普及に必須な、簡便に 利用できるSNPパターン判定キットの構築が考えられる。一方、科学的には、 本研究で示した「ブラックボックス無しの生体高分子ネットワーク」を構成す るアプローチは、生体内で行われている「分子を用いた情報処理」を純化して その原理を理解するための有効な手段であり、構成的生物学の一例である。将 来はリボスイッチ、無細胞翻訳系や人工膜技術と本研究を組み合わせること で、より複雑な生体情報処理を行うことが期待される。
13:45-14:30 招待講演2
竹内昌治 (東京大学生産技術研究所・助教授)
「見た目から入る細胞作り」

 マイクロ・ナノマシンニング(MEMS技術)を利用した細胞機能の再構成に関す る研究の紹介を行なう。特に、細胞の「形」や「動き」に注目し、これらを工 学的に再現するアプローチを紹介する。たとえば、細胞膜構造を均質に安定に 再構成する研究、それらの構造へ膜タンパク質を組み込み、活動を計測する研 究、細胞内物質輸送をチップ上で模擬する研究などを中心とする。細胞生物学 的な常識から離れて、見た目から入る工学的なアプローチの細胞作りを紹介し たい。
2. 一般講演
14:45-18:00 高松敦子(早稲田大学理工学部)
「生きた細胞でつくる結合振動子系の時空間パターン」

真正粘菌変形体は振動性の細胞であり、細胞厚みや細胞内の化学物質濃度などが非線 形型の振動現象を示す。この細胞の形をマイクロ構造物で制御することで、生きたま まの細胞を用いて結合振動子系を構築した。このシステムでは、振動子の配置や振動 子間の結合強度などのパラメータが随意にでき、汎用的な結合振動子系の数理モデル による結果との直接比較が可能である。本講演では、2振動子系、リング状の3振動子 系における振動の時空間パターンについて観察・解析し、位相モデルという簡単な結 合振動子モデルでの予想と比較した結果を紹介する。
青野 真士, 原 正彦(理化学研究所 FRS 局所時空間機能研究チーム)
「真性粘菌アメーバ細胞の光学的フィードバックに基づくニューロコンピュータの実装と動的連想記憶」

我々は、アメーバ細胞を、Hopfieldのニューラルネットワークアルゴリズムを組み込んだ光学的フィードバックを介して変形させることで処理 を実行する、連想記憶型情報処理システムを構築した。連想記憶処理は、嫌光性を示す単細胞アメーバ生物・真性粘菌変形体の2次元形状を、 複数の分枝をもつ微細構造内部で安定な記憶形状のうちの一つへと誘導することで実行される。こうして想起された記憶形状は長期間にわたり 安定に維持されるが、その後興味深いことに、それまで縮退していた粘菌の分枝が、通常の嫌光応答に反して光照射領域で自発的に成長運動に 転じ、一度安定化した記憶形状を、フィードバックアルゴリズムに抗する形で不安定化し、別の記憶形状を探索し始めるという挙動が観察され た。こうした安定化モードと不安定化モードの間の自発的スイッチングが、振動性をもつ細胞膜の時空間的振舞いの自発的遷移に由来して幾度 も反復されるため、我々のシステムは、単純な決定論的アルゴリズムでは実現が困難な、複数の記憶間の動的な遷移を実現できる連想記憶装置 として機能することが示された。
北村悠輔1、君和田友美2, 3、松本隆1、和田圭司3 (1. 早稲田大学大学院理工学研究科,  2. 東北大学大学院医学系研究科, 3. 国立精神・神経センター)
「交換モンテカルロ法を用いた遺伝子制御ネットワーク推定による核内受容体ネットワークの解析」
遺伝子機能を解明するためには,どのような遺伝子がどの組織・器官で,どの時期に発現しているかを調べる必要がある.しかし,遺伝子発現 データにはノイズが多く含まれ,さらに観測データ数の不足といった問題に直面している.そのため,機械学習などの情報処理学的な立場から の解析が求められている.
 本研究の目的は,遺伝子発現データから遺伝子制御ネットワークの推定を行うことであり,これにより、神経変性疾患や生活習慣病などの遺 伝子疾患の発症メカニズム解明を目指す.ここで、本研究はベイジアンネットワークに着目し,時系列データからグラフ構造を学習する手法を 提案する.一般にグラフ構造の学習にはグラフの評価基準とグラフ探索手法が必要である.グラフの評価基準にはディリクレ密度関数からベイ ジアン・ディリクレスコアを導出し、これをグラフ構造の評価基準とする.次に,一般にNP困難であることが知られるグラフ探索には,マルコ フ連鎖モンテカルロ法を用いたヒューリスティックなグラフ探索手法を提案する.また,マルコフ連鎖モンテカルロ法の遅い緩和現象を回避す るために,交換モンテカルロ法を用いた効率化を図り,さらに精度向上を目指す.
 実問題への適用として,マウス成体脳における神経前駆/幹細胞を定量的RT-PCR法によって発現解析し,得られた48種類の遺伝子発現データか ら核内受容体スーパーファミリーにおける遺伝子発現ネットワークを推定する.
戸崎浩和(JST合原複雑数理モデルプロジェクト, 理研BMC生物制御システム)
「遺伝子ネットワークの振る舞いにおける1細胞と多細胞でのギャップ

近年、さまざまな遺伝子ネットワークの数理モデルが解析されているが、1細胞内の遺伝子ネットワークの振る舞いと、それが集まった多細胞の 状態での集団としての振る舞いとの違いについてあまり深く考えていないものが見られる。本来、実験では一つの細胞を観察するよりも、多く の同質な細胞の集団を観察することのほうが多いはずである。もちろん、1細胞内での振る舞いと同一な多細胞での振舞いを同一視できることも あると考えられるが、そうでない場合も存在する。その一つの顕著な例として、私はtoggle switchの安定性があげられることを発見した。この 例では1細胞内での安定性と多細胞で見たときでの安定性では、遺伝子ネットワークの振る舞いがまったく異なることがあると考えられる。この 研究から多細胞における遺伝子ネットワークのモデリングの重要性が想起されれば幸いである。
小林徹也(理化学研究所再生発生研究センター・日本学術振興会)
「細胞ゆらぎの理論」
清水義宏(東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻)
「翻訳システムの再構成」

細胞内におけるタンパク質の生合成経路を、実際に試験管内において再現してみようという試みは遺伝暗号解読という目的の元、約半世紀前か ら行われている。無細胞タンパク質合成システムと呼ばれるこのシステムは細胞内の全てのタンパク質画分が含まれる細胞抽出液をベースに、 基質となるアミノ酸やエネルギー源を供給し、鋳型DNAまたはmRNAからタンパク質を合成するシステムである。特に、近年ではこのシステムを、 タンパク質調製ツールとして応用しようとする試みが活発になされており、様々なブレークスルーを経て、大腸菌や小麦胚芽の細胞抽出液を用 いたシステムにおいてタンパク質合成量の飛躍的な向上が達成されている。  我々は、こうした流れに則し、従来型とは異なる新しい無細胞タンパク質合成システムとして翻訳システムを構成する要素をそれぞれ調製 し、再構成させたPURESYSTEMの開発を行ってきた。現段階では、タンパク質合成量は細胞抽出液を用いたシステムのそれと比較するとまだ劣る 点があるが、システムの構成要素を単純化、明確化することによって様々な科学的知見、また、工学的な利点がもたらされている。本講演では PURESYSTEMの特徴及びそれを用いたいくつかの研究について紹介する。
おわりに: 岩崎秀雄(早稲田大学理工学部)
「”細胞を創る”プロジェクトについて」
   
参加方法 事前登録の必要はありません。
参加費 JSBi 会員は無料
非会員は\2,000.- (学生は\1,000.-)
賛助会員は一口につき一名無料
場 所 早稲田大学理工学部(大久保キャンパス)
62W号館 1階 大会議室
日 時 2006年3月30日(木) 13:00 - 18:00
問い合わせ JSBi システムバイオロジー研究会
運営委員 岩崎秀雄
Email: hideo-iwasaki@waseda.jp
Tel: 03-5286-3413 (ex. 73-3184) Fax: 03-5286-3883

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