第13回システムバイオロジー研究会のお知らせ


2006年11月9日(木) 13:00〜17:40


「遺伝子発現解析から迫る転写制御」


遺伝子ネットワークを解明し,ネットワークが生命現象を生み出す仕組みを理解する ために,マイクロアレイをはじめとするハイスループットな発現解析が一般に広く用 いられるようになって久しい。しかしながら、これらのデータを用いて転写制御ネッ トワークへ迫るのは、データの精度や量,転写制御や信号伝達経路の複雑性などの問 題があり,依然として難しいというのが現状であろう。本会の招待講演では、発現 データを有効に活用するためのアプローチについて話題提供を頂くとともに、これに 関連した研究を一般募集し、遺伝子ネットワーク研究の現状と将来について議論する。

世話人
システムバイオロジー研究会 運営委員 川路英哉

*INFORMATION*
場所東京大学医科学研究所一号館講堂
日時2006年11月9日(木) 13:00〜17:40
参加方法 事前登録の必要はありません
参加費会員は無料(賛助会員は一口につき一名無料)
非会員 \2,000.- (但し学生は \1,000.-)
問い合せ川路 英哉


* SCHEDULE *
13:30-15:00 招待講演

瀬々 潤 (お茶の水女子大学 理学部 情報科学科)
「遺伝子発現量の簡便な解析を目指して」


小野 功 (東京工業大学大学院 総合理工学研究科 創発機能形成分野)
「進化アルゴリズムによる遺伝子ネットワークの相互作用推定」


15:00-15:20 休憩

15:20-17:20 一般講演

田口善弘 (中央大学理工学部物理)
「非計量多次元尺度構成法を用いた遺伝子発現データ解析」


真崎 浩一 (九州工業大学大学院 情報工学研究科)
「大腸菌 窒素同化システムにおけるシステムバイオロジー」


瀬尾茂人 (大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻)
「CAGEタグを用いたゲノム領域上の共通発現パターン探索手法」


大柳一(国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター、 三菱スペースソフトウェア(株) つくば事業部)
「イネアノテーションプロジェクトデータベース〜植物のシステム的理解に向けて〜」


17:20-17:40 ディスカッション 
   

*ABSTRACT*

[招待講演]
瀬々 潤 (お茶の水女子大学 理学部 情報科学科)
「遺伝子発現量の簡便な解析を目指して」

マイクロアレイを始めとする遺伝子発現採取手法の発展によって,細胞内の 数千,数万の遺伝子発現量が同時に観測できるようになった.しかし,発現量 の膨大な 情報を前に,ぼう然と立ち尽くしてしまうことが少なくない.その 理由の一つとして,発現の変動という情報と,生物,医学的な知識との間に 大きな溝が有ることが挙げられるだろう.
本講演では,遺伝子発現量などの数値で表された情報と,我々の持つ遺伝子や 患者の疾患に関する情報を見比べることで,なるべく容易に遺伝子発現を我々 の知識と結びつける手法を紹介する.特に,患者の病理学的情報,転写因子, 遺伝子オントロジーとの関係を解析した例を紹介する.

小野 功 (東京工業大学大学院 総合理工学研究科 創発機能形成分野)
「進化アルゴリズムによる遺伝子ネットワークの相互作用推定」

遺伝子ネットワークのモデルの一つとしてS-systemがある.S-systemを用いた 遺伝子ネットワーク推定は,適切なS-systemのシステムパラメータを求める 探索問題として定式化される.実験コストなどの問題から,実際の生体内に おける遺伝子ネットワーク構造である「真の構造」を一意に決めるだけの観測 データを得ることは困難と考えられることから,探索手法は,真の構造を含む 満足構造の集合を求めることが望ましいと考えられる.満足構造とは,それから 計算されるタイムコースデータと観測データとの誤差がある許容値以下の構造の ことである.一方で,生物学的知見から真の構造は比較的スパースな構造である ことが知られている.本講演では,我々のグループで開発しているスパースな 満足構造集合を効率的に探索するための進化アルゴリズムを紹介する.また, PCクラスタ,グリッド計算環境上で進化アルゴリズムを並列実行することに よる計算時間の短縮についても述べる.

[一般講演]
田口善弘 (中央大学理工学部物理)
「非計量多次元尺度構成法を用いた遺伝子発現データ解析」

遺伝子発現実験データの解析にはいろいろな手法が提案されているが、まだ、 決定的なものはなく、様々な手法を試すのが望ましい段階である。近年、我々は 非計量多次元尺度構成法(nMDS)と呼ばれる古くから知られている手法を遺伝子 発現実験データの解析に用いることを試みて来た。本講演では時系列データ (分裂酵母の細胞分裂周期のマイクロアレイデータ)の解析を主に取り上げ、 通常用いられているような時系列データの周期性を仮定した手法(例:正弦回帰) よりもnMDSの方がよい結果をだすことを示す。特に正弦回帰ではリボゾーム関連 遺伝子を誤って排除したり、S相関連の遺伝子発現がS相にないという問題なども あることも指摘する。更に、時間があればシアノバクテリアの概日周期のレポー ター遺伝子挿入による生物発光を用いた網羅的な遺伝子発現解析についての 予備的な結果も報告する。

真崎 浩一 (九州工業大学大学院 情報工学研究科)
「大腸菌 窒素同化システムにおけるシステムバイオロジー」

大腸菌の窒素同化システムのモデリング・シミュレーションにより、システム 解析を行った。この数学モデルは53の代数方程式と19の微分方程式からなる。 窒素同化システムで中心的役割を果たすのはグルタミン合成酵素(GS)である。 窒素同化システムはアンモニア同化経路とGSの活性を調節するタンパク質相互 作用ネットワーク、及びglnA(GS)、Ntr遺伝子発現を調整する遺伝子ネットワーク から成る。これらのネットワークは複数のフィードバックにより制御されており、 代謝層からの信号が遺伝子まで伝達され転写制御がなされている。システム解析 により、GS転写調節メカニズムにおいてポジティブフィードバックが大きな役割 を担っていることがわかった。システムはアンモニアストレスに対してポジティ ブフィードバックのON/OFFを切り替えることで対応していると推測される。 実際にglnAの発現をPCRで測定し、この予測を支持する結果を得た。

瀬尾茂人 (大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻)
「CAGEタグを用いたゲノム領域上の共通発現パターン探索手法」

遺伝子の発現の多様性や制御ネットワークの複雑さは予想されていた以上であり, センス-アンチセンス鎖による転写制御や,標的遺伝子の近傍で転写された非翻訳 性RNAが発現制御に直接関与している例も報告されている.これらのことから, 各遺伝子の発現量に加え,ゲノム上の位置情報を考慮することも,転写制御・ 発現調節のメカニズムを解明する上で重要であると考えられる.本研究では, CAGE(Cap Analysis Gene Expression)タグを用いたゲノム領域上の共通発現 パターン探索手法を提案する.CAGEとは塩基配列決定技術に基づくトランスクリ プトーム解析の手法であり,発現量に加え正確な転写開始点の情報が得られる ため,発現プロファイルとゲノム上の位置を関連付けて解析することができる. 本発表では,評価実験として提案手法をマウスのCAGEライブラリから得られた データに適用し,評価と考察を行う.

大柳一 (国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター、 三菱スペースソフトウェア(株) つくば事業部)
「イネアノテーションプロジェクトデータベース 〜植物のシステム的理解に向けて〜」

2004年に国際イネゲノム解読プロジェクト(International Rice Genome Sequencing Project : IRGSP)によってイネゲノムの完全解読が達成され、 イネ研究はポストゲノムの時代に突入した(IRGSP, Nature, 2005)。 これを受けて同じく2004年末より、世界中からイネ研究者・アノテーター が集結しマンパワーによりイネ全遺伝子を高精度に注釈付けする試み、 イネアノテーションプロジェクト(Rice Annotation Project : RAP)が 推進されている(RAP, Genome Research, accepted)。RAP-DBは、RAPに よって得られたイネゲノムの注釈情報を格納・公開することによって、 この貴重な情報をイネ研究のコミュニティに還元するためのデータベース である(Ohyanagi et.al., Nucleic Acids Research, 2006)。今後は遺伝子 発現に関する知見をRAP-DBに統合していくことができれば、RAP-DBは植物の 転写制御を理解するための有用な情報源たり得ると考えている。


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