メニュー
検索

バイオインフォマティクス夏の学校2005 講演要旨


久原 哲 (くはら さとる)  九州大学大学院農学研究院
「スクリーニングからエンジニアリングへ」

わが国は、微生物発酵にみられる生物機能を利用した物質生産、変換の分野において、世界をリードしてきた。その基盤はスクリーニングや培養工学に関する情報の蓄積と卓越した技術にあった。21世紀、ポストゲノム科学時代として種々のOMICS 研究が始動し、生物学が新しい局面を迎えている。生物機能をさらに高度に利用するためには、遺伝子・タンパク質・代謝産物の網羅的解析とともに、それらの構成する機能ネットワーク構造を理解し、応用することが不可欠である。生命の青写真は遺伝子ではなく、ネットワーク構造であると言われている。このようなパラダイムシフトのもと、生物機能利用の方法論が、スクリーニングからエンジニアリングへシフトしようとしている。この講義では、この時代に必要な新しいパラダイム、特に実用生物に適用する方法論の確立の必要性を概説する。


松野 浩嗣 (まつの ひろし)  山口大学理学部  

「シミュレーション支援による新しい生物実験スタイルの構築に向けて」

システムバイオロジーの大きなテーマのひとつとして,シミュレーション支援による新しい実験スタイルの確立がある.すなわち,コンピュータを用いてこれまでの知見や生物実験から得られたデータを整理し,対象となる生命システムのモデル化を行い,シミュレーションを実行しながら新たな仮説を見出し,これを実験によって検証するというサイクルが確立すれば,時間とコストの大幅な削減ができ,生物実験の格段の効率化が期待できる.
これを達成するため,我々の研究グループではGenomic Object Netプロジェクトを進めている.このプロジェクトで開発されたシミュレーションツールは,ハイブリッド関数ペトリネットと呼ばれる工学的手法を用いていることが特徴であり,微分方程式やプログラミング言語などの数理的表現を使うことなく,目的の生物システムをダイレクトにモデル化し、シミュレーションすることができる.
本講義では,この実践例として,マウスの概日リズム遺伝子制御機構をハイブリッド関数ペトリネットを用いてモデル化し,シミュレーションを実行して既知でない遺伝子制御関係を見出したプロセスについて紹介する.

【参考文献】

 「不可欠ではないが,読んでおけば講義内容をより深く理解できる.」ものとして
 次の3つを挙げておきます.

 ・北野宏明,システムバイオロジー,秀潤社.
 ・北野宏明,システムバイオロジーの展開,シュプリンガー・フェアラーク東京.
 ・井上愼一,脳と遺伝子の生物時計,共立出版.


井口 登與志 (いのぐち とよし) 九州大学大学院医学研究院

「糖尿病の成因、病態、治療」

厚生労働省の2002年の糖尿病実態調査によると糖尿病有病者数は約740万人、予備軍を加えると約1620万人で1997年の前回調査より約250万人の増加となっている。今後もその増加が予想されており、糖尿病の予防、管理および治療法の向上が益々重要となっている。糖尿病の多くを占める2型糖尿病の成因は複雑で、多くの臓器や因子の関与が明らかになりつつある。膵β細胞からのインスリン分泌は食事に対する追加分泌の低下から膵β細胞の数の減少による絶対的低下(基礎分泌の低下)まで多様であり、さらに肝、骨格筋や脂肪組織でのインスリン抵抗性が加わることにより糖尿病が発症する。これらの複雑な病態に応じた治療のため多彩な作用機序の薬剤が開発され臨床応用が可能となっている。しかしながら、網膜症による失明は未だ後天的失明の第一位であり、腎症による透析の導入数も年々増加し疾患別原因の第一位となっている。今後高齢化社会を迎え糖尿病を基盤とした動脈硬化性疾患の増加も危惧されている。このような血管合併症の成因として高血糖に起因する種々の血管壁細胞の代謝異常仮説が提唱されているが、未だその成因は確立されていない。今後、糖尿病の病態の把握、適正な薬物療法の選択、合併症成因の解明などへのシステム生物学的検討の寄与が期待される。本講演では、糖尿病の成因、病態、治療、現在の問題点などについて概説し、システム生物学研究者の皆さんへの話題提供としたい。


樋口 知之 (ひぐち ともゆき) 統計数理研究所

「モデルに基づくクラスタリングと遺伝子ネットワーク推定」

人工知能,ニューロコンピューティング,機械学習等の分野から多くの研究者が,DNAアレイデータから遺伝子ネットワーク推定研究に参入している.それらの多くはアルゴリズム(手続き)ベースであり,推定の誤差評価などは不適切な場合もある.本講義では結果の解釈が直接的で,またモデル比較手続きが情報量規準を利用して陽にできる,モデルベースのアプローチを紹介する.特にバイオインフォマティクスにおけるベイジアンモデリングの有効性を理解してもらいたい.時間の制約上,クラスタリングと遺伝子ネットワーク推定の問題を具体的題材としてとりあつかう.ベイズモデルモデルは,異種複数の情報を確率的に表現するので,ベイズの枠組みをもとに情報を組織的に統合し,また新たな知見の抽出ができる.
時間が許せば,状態空間モデルを利用したDNAアレイタイムコースデータの解析と遺伝子ネットワーク推定手法にも触れたい.


【関連する論文】
 [Bayese-1]
  S.Imoto, T.Higuchi, T.Goto, K.Tashiro, S.Kuhara, and S.Miyano,
  Combining microarrays and biological knowledge for estimating gene networks via Bayesian
  networks, Journal of Bioinformatics and Computational Biology, Vol.2, No.1,77-98,
   #DOI:10.1142/S021972000400048X, 2004.
 [Bayese-2]
  S. Imoto, T. Higuchi, S. Kim, E. Jeong, S. Miyano,
  Residual Bootstrapping and Median Filtering for Robust Estimation of Gene Networks from
  Microarray Data, Proceedings of Computational Methods in Systems Biology, Lecture
  Notes in Bioinformatics, Springer, 3082, 149-160, 2005.
 [Cluster-1]
  R. Yoshida, T. Higuchi, S. Imoto,
  A Mixed Factors Model for Dimension Reduction and Extraction of a Group Structure in
  Gene Expression Data, Proceedings of 2004 IEEE Computational Systems Bioinformatics
  (CSB2004) Conference, 161-172, 2004.
 [Time-1]
  R. Yamaguchi, S. Yamashita, T. Higuchi,
  Estimating gene networks with cDNA microarray Data Using State-space models,
  Proceedings of 2005 International Workshop on Data Mining and Bioinformatics,
  Lecture Notes in Computer Science, Springer, 3482, 381-388, 2005.
 [Time-2]
  R. Yoshida, S. Imoto, T. Higuchi,
  Estimating Time-Dependent Gene Networks from Time Series Microarray Data by
  Dynamic Linear Models with Markov Switching, Proceedings of Computational Systems
  Bioinformatics Conference (CSB2005), (to apper), 2005.

【参考文献】
 ★あえて,日本語のみ,新しい本をあげてみました.
 ★参考文献を読んでいなくても,講義の資料のみでわかるよう配慮します.

 [グラフィカルモデル]
  宮川雅巳,「グラフィカルモデリング」,朝倉書店,1997.
   統計の立場から現代的多変量解析への取り組みにふれることができる.
   (不可欠ではないが,読んでおけば講義内容をより深く理解できる)
 [階層ベイズモデル]
 ・伊庭幸人,「ベイズ統計と統計物理」,岩波書店,2003
   読み物本.さらりと現代におけるベイズモデルの働き,おもしろさにふれることができる.
   (入門的な本である)
 ・松本隆,石黒真木夫,乾敏郎,田邉國士,「階層ベイズモデルとその周辺」,岩波書店,2004
   (不可欠ではないが,読んでおけば講義内容をより深く理解できる)
 [情報量規準]
  小西貞則,北川源四郎,「情報量規準」,朝倉書店,2004
   情報量規準に関する決定版.(講義後に読むアドバンストな本である.)
 [状態空間モデル]
  北川源四郎,「時系列解析入門」,岩波書店,2005
   状態空間モデルについて入門から応用までカバーしている.
   (不可欠ではないが,読んでおけば講義内容をより深く理解できる)


倉田 博之 (くらた ひろゆき)  九州工業大学情報工学部

「代謝流束解析とエレメンタリモード解析」

代謝流束解析とは,細胞内の代謝系における各代謝反応の反応速度(モル流束)分布を解析することである.流束収支解析(flux balance analysis, FBA)とも呼ばれる.
環境の変動に対して細胞は代謝系・遺伝子制御ネットワークを変化させるが,代謝流束の分布を解析すれば,細胞の生理学的状態を理解することができる.また,与えられた炭素源や窒素源から目的とする代謝物質の流束の理論的最大値を推定することが可能である.代謝流束解析においては,代謝パスウェイデータベースや酵素反応情報の知見にもとづいて代謝系の生化学反応を化学量論式として表現する.細胞内の代謝物質濃度は定常であると仮定することによって,代謝系におけるすべての代謝流束が満たすべき収支式を線形代数方程式として構築する.その際,生物の代謝反応経路の骨格を抽出して、簡略化することが重要であり、測定できる流束から,未知の代謝流束を推定することになる.2000年ごろにおいて,代謝反応全体を,定常状態を維持できるような不可逆反応から構成される酵素反応経路に分割する方法として,Elementary Mode 解析が提案された.代謝流束分布をElementary Modeの線形結合で表すことができる.これによって,代謝流束予測や,ポストゲノムデータの統合が可能になりつつある.


岡本 正宏 (おかもと まさひろ)  九州大学大学院システム情報科学府

「システムバイオロジー研究のための数理科学的手法」

生体内の個々の遺伝子解析から遺伝子セットとしての機能解析が進みつつある。また、同様に細胞内の個々の代謝過程(酵素反応)から代謝系の解析へ進展し、代謝セット(細胞内タンパク質ネットワーク)としての機能解析も行われようとしており、生命のシステム論的解析(システムバイオロジー)がこれからますます進むものと期待される。たとえば、微生物等での生物生産システムの効率化、最適化、最適制御を目指す場合、それに関わる代謝経路に存在する制約条件(ボトルネック)を同定し、そこを集中的に改善、制御することで、目的とする代謝産物の増収が期待できる。そのためには、パスウェイシミュレータの設計・開発、パスウェイ解析等の情報科学的手法および情報科学駆動型実験デザインは必須である。この講義では(1)システム同定・推定、(2)システム解析、(3)システム制御、(4)システム設計といったシステムバイオロジーの4つの戦略を支える数理科学的手法の概要を紹介し、独自に開発した代謝経路解析シミュレータWinBEST-KITを用いて、シミュレーション技法を説明する。

【参考文献・参考書】
 ・岡本、小野:人工知能学会誌, 18(5), 502-509 (2003)
 ・岡本:生物物理, 43(4), 192-197 (2003)
 ・Maki et al.: J. Bioinformatics and Computational Biology, 2(3), 533-550 (2004)
 ・Torres, Voit: Pathway Analysis and Optimization in Metabolic Engineering,
   Cambridge Univ. Press, New York , 2002
 ・グレゴリ・N・ステファノポーラスら:代謝工学:原理と方法論(清水、塩谷訳),    
  東京電機大学出版局, 2002

プリンタ用画面

プライバシーポリシー 著作権について
All Rights Reserved, Copyright(c)・Japanese Society for Bioinformatics

管理用