第14回システムバイオロジー研究会のお知らせ
「心臓リモデリングの解明におけるシステムバイオロジー、コンピュータ技術の可能性」
今回は、コンピュータ技術を用いて心臓機能の解明に取り組んでおられる研究者にお話を伺うと同時に、
臨床における問題をよく理解し、その解明に取り組んでおられる研究者からもお話を伺い、
wetとdryの双方からdiscussionができる会となるよう考えております。心臓及び心筋のコンピュータモデル、
シグナル伝達のコンピュータモデル、それらに相対する実験研究といったご講演を頂きます。
皆様のご参加をお待ちしております。
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【講演要旨】
佐甲靖志
「1分子計測で細胞内反応ネットワークを理解する」
我々は、1分子計測技術を開発・応用し、細胞内情報処理反応ネットワークの作動原理を解明することを目指して
研究を行っている。1分子反応計測により、生きた細胞の中で、分子間の結合・解離、酵素反応などの
キネティクスに関する反応パラメータ、分子運動や輸送のダイナミクスに関する反応パラメータを決定し、また、
反応に関与する分子数や分子の空間分布を測定することができるようになった。
これは、細胞内反応ネットワークシミュレーションにおける基礎データを与えるものであり、
反応ネットワークのモデル化やシミュレーション結果の検証に有用であると考えられる。本講演では、
細胞内1分子計測と数理モデルの組み合わせにより、上皮成長因子受容体の情報処理反応が
どこまで解けてきたかをご紹介するとともに、1分子計測から見えてきた、
将来の反応ネットワークシミュレーションへの期待についてもお話ししたい。
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西村 智、細谷 弓子、永井 良三、杉浦 清了
「単離心筋細胞を用いた微小力学的特性と細胞骨格の関与、mechanoelectrical feedbackの検討」
心疾患の病態解明を目指してナノスケールの微小操作技術を応用し、単離心筋細
胞の力学的特性と細胞骨格の関与、収縮・拡張性について検討を行った。我々は
カーボンファイバーを用いて単一心筋細胞の発生する張力・長さ関係を様々な条
件下で測定するシステムを開発し、不全心筋細胞の挙動を明らかにした。さら
に、伸展試験・ずり剛性の測定・押し込み試験といったデバイスを開発し、力学
的特性への細胞骨格の関与を明らかにした。また、不整脈の発生機序を明らかに
するため、伸展刺激応答性チャンネルの動態を検討した。電位感受性色素による
測定を組み合わせ、任意の速さ・振幅を持つ伸展刺激に対する心筋細胞の電位応
答を非侵襲的に計測することに成功し、伸展刺激は静止膜電位の上昇及び活動電
位の延長を引き起こすが電位の変化は刺激の大きさ・速度・時相に大きく依存す
ることを示した。
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塩井 哲雄
「心肥大のメカニズム」
心不全は心肥大(心臓が大きくなること)を伴い、心肥大は心不全の重要な悪化
因子である。心臓の大きさは、細胞レベル、および臓器レベルで調節されている
と考えられるが、心臓の大きさの調節と維持のメカニズムは明らかでない。
遺伝子改変動物を用いた検討で、インスリンやインスリン様増殖因子の細胞内情
報伝達に関与するPI3キナーゼ、PTEN、Akt、TOR(Target of Rapamycin)が心臓
の大きさの調節に大切であることが明かとなった。インスリン・シグナル伝達経
路はショウジョウバエの系でも臓器サイズの調節に大切であり、インスリン・シ
グナル伝達経路が種をこえて臓器の大きさを決定していることが示された。
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岩永 善高
「心筋リモデリング:カルシウムハンドリングと細胞外マトリックス」
近年の分子生物学的基礎研究から、心筋リモデリングには様々な機序が想定されている。
我々は、その中でも1)カルシウムハンドリングの変容と2)細胞外マトリックスの変容が重要と考え研究を進めている。
当研究会では、その2点より心筋リモデリングの機序に関して、概説したいと考えている。
1) カルシウムハンドリングの変容;不全心では様々な外的ストレスによって細胞内カルシウム調節不全が起
こり、それが心不全の病態・予後を規定するきわめて重要な因子として認識され始めている。
さらには、カルシウム異常を是正する分子標的療法は心不全動物モデルの収縮性を改善させるだけでなく、
心筋リモデリングを改善し、更には生命予後を改善させる新しい治療戦略として有望であるという実験報告が
われわれのものも含め相次いでなされている。
2) 細胞外マトリックスの変容;リモデリングを来した心筋は、細胞内カルシウム異常等による心筋細胞自体
の構造・機能的変容が生じているのは勿論であるが、それを支える細胞外マトリックスにも構造・機能的変容が
生じ、それらが相互に影響を及ぼして更にはリモデリングが進行していくものと考えられている。
従って現在、細胞外マトリックスを標的とした新たな心不全治療戦略も提唱されている。
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尾野 亘
「メタボリックリモデリングへのアプローチ」
心臓においてインスリン刺激、あるいは虚血刺激の際に、ブドウ糖取り込みの律
速段階にある分子はGLUT4である。AMPKはGLUT4 translocatonに中心的な働きを
示す。近年、心筋リモデリングがAMPKの活性化の機序を変えるという報告があ
る。力学的な負荷がエネルギー代謝に及ぼす影響についての検討を開始した。
一方、糖尿病患者の心筋においては脂肪酸の摂取と蓄積がさらにGLUT4
translocationを抑制するという悪循環が生じている。従って、糖尿病患者の心
疾患リスクを低下させるには、血糖値のコントロールだけでは不十分で、心筋の
エネルギー代謝自体を改善させる必要があると考えられる。そこで我々は、まず
心臓でのGLUT4 translocationの詳細な分子機序の解明を目的として、GLUT4
translocation関連遺伝子のクローニングを行い、予備的検討においてactinに関
わる分子を得た。
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齊藤 隆太、皿井伸明、松岡達、野間昭典
「心筋ミトコンドリアにおけるCa2+依存的なエネルギー代謝制御機構のモデル化」
心筋細胞においてミトコンドリア内Ca2+濃度上昇によっていくつかの酵素やトランスポータが活性化され、
エネルギー代謝の指標である酸素消費量(mVO2)が増加する事が知られている。
我々はこのCa2+による心筋エネルギー代謝制御機構を定量的に解析するため、酸化的リン酸化、
TCA回路、ピルビン酸代謝、脂肪酸β酸化、リンゴ酸シャトル、Ca2+動態に関する分子機能から構成される
心筋ミトコンドリアモデルを開発した。Ca2+依存的なmVO2の増加は、
実験的に示されている3つのCa2+依存性脱水素酵素に加えて、ATP合成酵素あるいはATP/ADP交換体、
リン酸担体(PiC)、アスパラギン酸/グルタミン酸担体(AGC)のすべてがCa2+によって活性化されると仮定した場合のみ、
再構成することが可能であった。心筋ミトコンドリアにおいてはPiCやAGCのCa2+による活性化が
重要な役割を果たす事が示唆された。
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青木 一洋、中村 岳史、松田 道行
「神経突起形成における細胞骨格シグナル伝達経路のフィードバックシステム」
脳・神経系の機能は、多様な神経細胞どうしが機能的に結合して作り上げられる
精妙な神経回路によって制御されている。神経回路の構築において、神経突起
(軸索・樹状突起)の伸展は重要な初期過程の1つである。本研究では、細胞骨
格を制御するRhoファミリー低分子量Gタンパク質(Rac1、Cdc42)、およびイノ
シトールリン脂質(PIP3)の神経突起形成・伸展における制御機構の解析を行っ
た。これらの分子の活性及び量的変化の時空間データをFRETイメージングによっ
て取得し、得られた結果を基にNGF-PIP3-Rac1経路のモデルを構築した。そのシ
ミュレーション結果からPIP3の脱リン酸化酵素がこのシグナル伝達経路の重要な
負の制御因子であることが予測され、阻害剤処理やRNAi法の実験結果からその予
測が正しいことがわかった。さらに、 NGF-PIP3-Rac1シグナル伝達経路内にポジ
ティブフィードバックとネガティブフィードバックが存在することが推測され、
それを実験的に実証することができた。これらの結果をもとに、神経突起形成に
おけるフィードバックシステムの意義について議論したい。
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横田 秀夫
「生体形状情報の数値化及びデータベース構築研究 −形態情報と遺伝情報の連結を目指して−」
理化学研究所「生体力学シミュレーション特別研究ユニット」では、「生体力学シミュレーション研究」と
「生体形状情報の数値化及びデータベース構築研究」を進めている。
生体形状情報の数値化及びデータベース構築研究では、表現型と遺伝情報を結びつける手法の開発を目指して
研究を進めている。表現型としても非常に多くの対象があるが、その中でも生物の3次元形状を対象としている。
特に、生物の表面情報と共にその内部の構造を含む形状(臓器、骨格系など)を対象とする。これまでに生物の
3次元構造を対象とした検討がなされているが、それらの多くは、人の主観に基づいたある一部分の形状を対象
としている。本研究では、生物をミクロンの精度で自動的にディジタイズする手法の開発、大量のボリューム
データからの特徴部位の自動抽出法の開発、抽出した組織形状の数値化手法の開発、数値化した情報の比較、可
視化手法の開発を行い、人の主観によらない、数値化されたフェノタイプを導き出すことを目指している。ここ
では、我々の提案するシステムの概略ならびに、生物の3次元構造のディジタイズ法、画像処理を用いた形状抽
出と形状表現について発表する。一般に生物の3次元形状のディジタイズには、レーザーによる外形状測定、共
焦点レーザー顕微鏡、マイクロX線CT、マイクロMRI等による断層撮影が用いられている。しかしながら、これ
らの方法では、生物1個体を対象に、その内部組織の形状撮影、各臓器を個別に数値化することは困難である。
我々は観察対象を切断し、その断面画像を記録することを繰り返して試料内部の3次元構造を再構築する3次元
内部構造顕微鏡(3D-ISM)を開発している。本装置では、実際に試料を切断することから、その分解能は最小1μ
mであり、また、自動的に連続断面が取得できる。これらから得られる情報は、実物のフルカラー画像と蛍光画
像を取得することができる。これまでに異なる系統のマウスを観察し、その内部構造の違いを明らかにした。ま
た、20μm分解能でマウス1匹を切断した際の撮影時間は1時間と非常に高速である。得られた情報はフルカ
ラーのボクセルデータで5GBと大量の情報であった。この情報群から、臓器毎に領域を画像処理により自動抽
出し、抽出した情報に対して3次元可視化処理して、その形状を明らかにした。また、抽出領域の体積、表面
積、形状を数値化し、異なる系統間での比較を行った。さらに、遺伝子発現を蛍光マーカを用いた試料に対して
蛍光観察法を組み合わせた3D−ISMを用いることにより、遺伝子発現の3次元パターンを明らかにすること
にも成功した。
現在、構築した手法を用いて、分子生物学のモデル動物であるマウスの主な系統の全身データベースの構築、マ
ウス脳血管網のデータベースの構築を行っている。本発表では、研究内容についてお話しすると共に、遺伝情報
とのリンクについて皆様方のご意見をお聞かせ願いたい。
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【問い合せ】
皿井伸明 sarai _at_ card.med.kyoto-u.ac.jp
京都大学「細胞・生体機能シミュレーションプロジェクト」
〒600-8815 京都市下京区中堂寺粟田町93 京都リサーチパーク4号館8F
京都大学「細胞・生体機能シミュレータ開発センター」
Tel:075-326-1367 Fax:075-315-3198