第1回システムバイオロジー研究会開催報告

倉田博之
システムバイオロジー研究会 副査

(九州工業大学情報工学部生物化学システム工学科)

 第1回システムバイオロジー研究会を10月22日午後1:00-6:00において、東京大学 医科学研究所1号館講堂で、「生命分子ネットワークの設計原理の解明」というタイ トルで行った。40数名の参加者があり、バイオインフォマティクス学会会長の宮野悟 氏の挨拶を含めて、招待講演2件、一般講演4件を得ることができた。今回は、ト ピックを数理的アプローチにしぼり、ポストゲノム時代において、生命システムをど のように理解するべきかについて議論した。詳細な内容はすでにプログラムに記述し てあるので、ここでは、おおよその概要を説明する。
 生命システムの設計原理を解明するための端緒となるようなトピックとして、九工 大の倉田が、制御工学のアプローチを用いた大腸菌熱ショック応答の解析を説明し た。生命分子ネットワークが階層的モジュール構造をとり、モジュール同士の結合を 決めるプロトコールが重要であることを指摘し、ある局面では、生命と人工物の制御 構造と構築原理が全く同じであることを示した。次に東京大学の小林氏が、制御理論 に基づいて、人工物と同様のスイッチングや振動回路を合理的に設計できることを、 具体的事例を挙げながら説明した。細胞における遺伝子回路の熱的ゆらぎや環境変化 に強いロバストなシステムの構築が重要であることを指摘した。政策研究大学院大学 の松浦氏は、通常、工学においては、除去されるべきノイズ、すなわち熱的ゆらぎを 生命システムが巧妙に利用していることをタンパク質レベルで説明した。確率共鳴現 象によって、微弱な信号をノイズの中から取り出せることを示した。また、ノイズを 含む一般的系を記述する数学的方程式を紹介し、生命システムを理解するための物理 的基盤の重要性を論じた。IBMの菅原氏は熱的ゆらぎのある生命分子ネットワークを 効率的にシミュレーションするための確率モデルの手法についての新しい展開を示し た。以上のトピックは比較的小規模な生命分子ネットワークやタンパク質レベルでの 解析方法であったが、大規模な生命分子ネットワークの構造を理解するためには、 ネットワークのトポロジカルな性質を抽出できるグラフ理論が有用であることを九工 大の大沢氏が指摘した。数百数千の分子種をもつネットワークから階層的モジュール 構造を抽出する方法や、そのロバストな性質を解析する手法について説明した。最後 に、岩手大学の伊藤氏が、ザゼンソウという植物の分子レベルにおける、温度制御ア ルゴリズムを解明するための理論解析、シミュレーション、実験による検証方法を示 した。生命システムのアルゴリズムを理論、シミュレーション、実験によって解明す るための一例を示した。
 以上より、生命システムをシステムとして理解するためのキーワードとして、ネッ トワークの階層性とモジュール性、人工的な遺伝子回路設計、確率的ゆらぎの除去と 効率的利用、シミュレーション、理論、実験があげられる。本研究会ではそれらの キーワードを有機的に結びつけることができたので、今後の発展を期待したい。