学会活動

第17回創薬インフォマティクス研究会  ★BiWO2013と共催

2013.09.11

1990年代後半、薬剤-タンパク質間相互作用を単一の標的タンパク質にとどまらずプロテオーム全体に対して網羅的に解析するポリファーマコロジーのコンセプトが提唱され始めた。ポリファーマコロジーを考慮することは、1.複数のタンパク質との相互作用による薬効の増強、2.hERGに代表される副作用の原因となるタンパク質に対する選択性、3.オフターゲット相互作用の探索による既存薬のリポジショニング、など多岐に渡る意義を持つ。しかし、計算的な予測および実験的な測定ともに膨大な時間及びコストを必要とすることから、これまで、ポリファーマコロジーによる解析例・応用例は限定的なものにとどまっていた。

近年、ChEMBL, PubChem等の膨大な活性相関データが公共データベースとして公開されたことで、計算的手法によるポリファーマコロジーの予測分野は急速な発展を遂げている。本セミナーでは、ポリファーマコロジーを予測する計算的手法の近年の進歩を概観するとともに、化合物の部分構造と標的となるタンパク質との統計的解析、ハイスループットなパネルアッセイ技術、多くの研究例で用いられている機械学習の理論的基盤についてご講演いただき、今後の方向性について議論したい。

 

テーマ:ビッグデータが可能とするポリファーマコロジーの予測

日時:9月11日(水) 13:30~16:40
場所:産業技術総合研究所臨海副都心センター別館11階
 http://www.cbrc.jp/biwo2013/ 

 

プログラム

理化学研究所 CLST 本間 光貴
「イントロダクション」
 
理化学研究所 CLST 佐藤 朋広
「インシリコによるポリファーマコロジー予測技術の変遷」
 
京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンター 馬見塚 拓
「Mining Significant Substructure Pairs from Drug-Target Network」 

10分休憩

カルナバイオサイエンス 西脇 英二
「細胞内シグナル伝達解析手法としての逆相蛋白アレイ(RPPA)」
 
東京大学大学院 情報理工学研究科 鹿島 久嗣
「ネットワーク構造予測のための機械学習」
 
パネルディスカッション


当日12:00より同会場にて株式会社菱化システム提供のランチョンセミナーがあります。研究会前のご昼食に、ぜひご参加ください。

 

参加費無料・事前登録不要ですが、運営管理の都合上、事前の参加登録にご協力いただけますと有難く存じます。 事前登録はこちら(9月11日にチェックしてください) >
https://form.cbrc.jp/modules/regist/event.php?eid=32 

 

講演要旨

理化学研究所 CLST 佐藤 朋広、本間 光貴
「インシリコによるポリファーマコロジー予測技術の変遷」

1990年代後半にポリファーマコロジーが提唱されて以降、計算科学的手法を用いて低分子化合物が相互作用するタンパク質を網羅的に予測することを目指して、ドッキング・機械学習など様々な手法を用いた研究がおこなわれてきた。特に、近年、ChEMBL, PubChem等の膨大な活性相関データが公共データベースとして公開されたことを背景として、化合物と標的タンパク質両方の情報を記述子として機械学習に用いるポリファーマコロジー予測手法が急速に発展している。
本発表では、ポリファーマコロジー予測手法の変遷と、創薬への応用の可能性について概説するとともに、MDL Drug Data Reportの情報を基に70種のタンパク質との相互作用および55種の疾患への薬効の有無に関して機械学習による予測モデルを構築し、化合物の分類および副作用の有無との相関の解析を行った結果について紹介する。

 
京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンター 馬見塚 拓
「Mining Significant Substructure Pairs from Drug-Target Network」 

薬物とそのターゲットの関係は、1対1ではなく、多対多であるということが 提唱されはじめてきた。多対多の関係の根底には、そのような関係にある薬物 とターゲットの中に共有されるパタンがあると考えられる。薬物を化学構造か らグラフとして捉え、一方、ターゲットをアミノ酸配列から文字列として捉え た場合に、多対多の関係にあるグラフと文字列ペアに統計的に有意に共有され るパタンを効率的に抽出するデータマイニング手法を紹介する。また、このデー タマイニング手法を実際の薬物-ターゲットペアデータに適用し、様々な検証 実験を行った結果について報告する。


カルナバイオサイエンス 西脇 英二
「細胞内シグナル伝達解析手法としての逆相蛋白アレイ(RPPA)」

蛋白キナーゼは癌、免疫疾患等の創薬標的として重要な酵素群の一つである。主に細胞内シグナル伝達に関わっており、種々の刺激に応じた細胞内での段階的な基質リン酸化を通じて細胞の増殖、分化等に作用する。それらの阻害剤は癌等の疾患に対して効果の高い治療薬として開発されている。近年、より多様な癌への応用や抵抗性変異株等に対するソリューションとしてpolypharmacologyのアプローチが注目されており、疾患に応じた標的セットの選択、標的セットに対する選択性を有する化合物のスクリーニング手法の発達は著しい。
本発表では、選択された化合物が実際の培養細胞や疾患組織中でシグナル伝達に与えた影響を網羅的に解析する為の手法の一つであるRPPAを紹介する。これはpolypharmacologyで選択された複数の標的に対する作用を細胞内のパスウエイに与えた影響で評価する手法として優れたものの一つであると考えている。RPPAでは多様なサンプルに対して同時に免疫ブロットを行う。同時処理できるサンプルが多いため経時変化や薬剤処理の容量応答を同時に解析できる。また、サンプルの希釈列を用意する事によりスライド内で広いダイナミックレンジでの定量性を確保できるという特徴がある。これまでに、リン酸化蛋白180種類に対する燐酸化シグナル伝達を広く評価できるシステムを開発し、それを応用して実際に臨床で用いられている抗がん剤の評価検討している。本発表ではRPPAから得られるデータの特徴を紹介し、いくつかの薬剤評価事例を紹介したい。


東京大学大学院 情報理工学研究科 鹿島 久嗣
「ネットワーク構造予測のための機械学習

機械学習は,データの中に隠された知見を発見し,そして将来に何が起こるのかを予測するためのデータ分析技術であり,数多くの分野において成功を収めてきた.従来,機械学習では個々のデータのもつ性質が分析の興味の対象であったが,近年その興味はデータの間の関係,すなわちネットワーク構造へと移行しつつある.本講演ではネットワーク構造の予測を目的とした機械学習法の基本的な考え方とその代表的な手法について概観する

 

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