基調講演1

講演者:小谷 元子 先生

(東北大学 理事・副学長(研究国際戦略・展開)、材料科学高等研究所 主任研究者・教授)

演題題目:予測・制御のための数理科学をめぐる世界動向

開催日時・会場:9月3日(水) 10時20分〜11時20分 第1会場

講演要旨:複雑な要因が絡み合う地球規模課題や社会課題において重要な兆し・変革点を的確に捉えて予測し、適切な対応をすることが大切です。自然・社会現象に関わるあらゆる情報・データの活用に向けて様々な分野が融合して取り組むだけでなく、数理科学がもつ複雑な現象を抽象化して可視化できるという強みを生かすことで、これら現象の解明・理解の深化を図るとともに、それに基づく予測や制御に関わる新しい学理と革新的な技術を創出していくことを目指し、領域名:予測・制御のための数理科学的基盤の創出が昨年たちあがりました。採択された課題の紹介や世界的な動向について紹介します。

基調講演2

講演者:門松 健治 先生

(名古屋大学 副総長、大学院医学系研究科 総合医学専攻 生物化学、糖鎖生命コア研究所・教授)

演題題目:糖鎖データの長足の充実が生命科学に革新をもたらす

開催日時・会場:9月4日(木) 9時00分〜10時00分 第1会場

講演要旨:地球上の生命体をつくる分子は驚くほど似通っている。例えば、核酸、タンパク質、糖鎖は共通してこれらの生命を紡ぐ鎖である。ただし、この3大生命鎖のうち、我々が現実的にアクセス可能な糖鎖情報は、糖鎖の潜在的情報量に比して圧倒的に少ない。このことが生命の謎を解く科学の力を限定的にしてきた。その最大のボトルネックは糖鎖構造の複雑性、多様性であったが、今やそれを解決できる技術的基盤が整おうとしている。また、糖鎖科学はこれまで日本が世界を牽引してきた学術分野である。このような背景をもとに、我々はヒト全糖鎖の構造を取得し、糖鎖の情報を核酸、タンパク質並みに底上げする基盤整備事業を立ち上げたいと考えた。こうして「ヒューマングライコームプロジェクト(Human Glycome Atlas Project: HGA)」は、2023年4月に生命科学領域で初の文部科学省大規模学術フロンティア促進事業として始まった。 3大生命鎖の基盤整備事業は、科学史の上で深い意義がある。ヒトゲノム計画は生命科学を一変させたのみならず、社会をも変えた。すなわち、ゲノム診断による予防的がん治療やSARS-CoV-2のmRNAワクチンなど、我々はゲノム医療が当たり前の時代を迎えている。タンパク質については、タンパク3000やHuman Protein Atlasなどの基盤整備事業が生命科学に大きな足跡を残しており、それらのデータベースを多くの生命科学者は日常的に使っている。糖鎖の基盤整備事業HGAは生命科学に欠けた最後のピースである糖鎖情報を提供するのみならず、ABO血液型やタミフルなどこれまで極めて限定的であった糖鎖の医療への応用に道を開くものである。