学会活動

著書紹介: Application of Omics, AI and Blockchain in Bioinformatics Research(阿久津達也・田口善弘ら著)

2019.10.17

本書はWorld Scientificから刊行されているAdvanced Series in Electrical and Computer Engineeringというシリーズの第21巻として刊行された、バイオインフォマティクスに関する編著書籍である。編者二名はいずれも台湾の亜州大学に所属し、もともとのバックグラウンドはそれぞれ計算機科学と物理学である。タイトルからも解るように、伝統的なバイオインフォマティクスの手法というより新しい手法に焦点を当てた内容となっている。全十章からなる本書が各章で焦点を当てているのはそれぞれ、Generalized Iterative Modeling(GIM)、Explainable AI、ブロックチェーン、ビッグデータ、ハイパフォーマンスコンピューティング、ブーリアンネットワーク、テンソル分解、など、それ自身がバイオインフォマティクスに特化したわけではない、一般的な機械学習・計算機科学の手法であり、それらを個別問題としてバイオインフォマティクスに適用するとどうなるか、という観点から書かれている。その意味では、まず、手法を学ぶ教科書として使うことができるだろう。焦点が当てられている手法もExplainable AIやブロックチェーンのような比較的新しい手法も含まれており、それらをバイオインフォマティクスにどう適用するか、という観点からも興味深い。この様に内容は多岐に渡るが、ここでは本会の会員である阿久津達也(京大)が担当した9章と、田口善弘(中大)が担当した10章について説明を詳しく加える。9章ではブーリアンネットワークという遺伝子ネットワークの離散モデルの紹介と、細胞分類のために必要なマーカー遺伝子検出問題と代謝ネットワークの頑健性解問題への応用について述べられている。ここでは中国剰余定理というよく知られた定理が動的マーカー遺伝子検出問題の解析に応用できること、整数計画法が代謝ネットワーク解析に応用できることなどが述べられている。一方、10章では、テンソル分解をバイオインフォマティクスに使う方法について述べられている。近年、ゲノム科学の分野ではマルチオミックス計測が可能になったことなどにより、多数のオミックスデータを統合的に解析する必要に迫られたり、計測の低廉化に伴うサンプル数の増大で、患者×臓器×遺伝子発現プロファイルのような行列では表現しにくい複雑な形式の実験条件のデータの解析に迫られたりしているがその場合、どうテンソルを使えばいいかが述べられている。本書は従来にはなかったような新しいバイオインフォマティクスの手法について学べるという意味で最適な一巻となっている。

タイトル:Application of Omics, AI and Blockchain in Bioinformatics Research
編者:Jeffrey J-P Tsai and Ka-Lok Ng
208頁、10,493円、2019年10月刊行、World Scientific

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