学会活動

第24回システムバイオロジー研究会開催のお知らせ

2009.08.18

共催:日本バイオインフォマティクス学会システムバイオロジー研究会
山口大学 スーパー研究推進体「微生物の機能解析及び機能開発」

日本バイオインフォマティクス学会システムバイオロジー研究会では、山口大学スー パー研究推進体「微生物の機能解析及び機能開発」との共催で研究発表会を山口大学吉田キャンパス(山口市)で行います。今回の招待講演には微生物のシステ ムバイオロジー研究で著名な岡本正宏先生(九州大学)と森浩禎先生(奈良先端科学技術大学院大学/慶応義塾大学)にお願いしております。
この分野 の研究者の人的ネットワークを深めるために、懇親会も企画しております。多くの方の発表と参加をお待ちしております。

開催日:2009年 8月18日(火)
開催時間:13時30分~17時30分(予定)
開催場所:山口大学大学会館会議室(山口大学吉田キャンパス@山口市)
(吉 田キャンパスへのアクセス)
http://www.yamaguchi-u.ac.jp/annai/access/yoshida-ap.html
(吉 田キャンパスマップ)
http://www.yamaguchi-u.ac.jp/annai/campusmap/campusmap_yoshida.html
参 加費:会員無料、非会員2千円(学生千円)

 

テー マ:微生物及びシステムバイオロジー関連研究一般

12:30~13:30 受付
13:30~14:20 [招待講演]
岡本正宏(九州大学大学院農学研究院)
「アセトン-ブタノール-エタノール(ABE)発酵代謝系のブタノール高生産のためのシステム設計:動的 感度解析とTime-sliced metabolic flux analysisの適用」

14:20~14:30 --- 休憩 ---

14:30~15:20 [招待講演]
森 浩禎(奈良先端科学技術大学院大学/慶應義塾大学先端生命科学研究所)
「細胞内機能ネットワークの完全解明にむけて」

15:20~15:40 --- 休憩 ---

15:40~16:05 岩楯好昭(山口大・院・理工学、JSTさきがけ)
「誘引物質が無いときのアメーバ運動の極性の決定」
16:05~16:30 〇村田正之1、藤本博子1、西村香織1、山田守1,2(1山口大・院医・応分生, 2山口大・農・生機)
「大腸菌における高温生育限界温度での 必須遺伝子とその発現変動」

16:30~16:40 --- 休憩 ---

16:40~17:05 東 慶直、古谷直子、白井睦訓(山口大・院・医学系)
「酢酸菌のゲノムとフェノタイプ」
17:05~17:30 守屋央朗*、茅野文子、蒔苗浩司(岡山大・異分野融合先端研究コア、*JSTさきがけ)
「遺伝子綱引き法をもちいた細胞システムのロバストネス 解析 」

18:00~20:00 懇親会(山口大学第1学生食堂「ボーノ」) 会費 3,000円


--- 参加申込フォーム (8月10日締切)---
氏名:
所属:
電話番号:
メールアドレス:
懇 親会参加希望: 有 無
連絡事項:
--------------------------------------

申し 込み/問い合わせ先:
松野浩嗣(山口大学大学院理工学研究科)
matsuno AT sci.yamaguchi-u.ac.jp 電話/FAX 083-933-5697


アブストラクト:

岡本正 宏(九州大学大学院農学研究院)
「アセトン-ブタノール-エタノール(ABE)発酵代謝系のブタノール高生産のためのシステム設計:動的感度解析 とTime-sliced metabolic flux analysisの適用」

ABE発酵は、バイオ燃料の1つであるブタノールの 生産プロセスとして注目されているが、ブタノールの収量・生産性は低く、それらの向上が急務である。我々は、これまでに実験で得られた代謝物濃度のタイム コースデータを基に構築した数理モデルを用いて、開発した代謝系動的解析手法、Time-sliced metabolic flux analysisにより、高ブタノール生産の代謝ボトルネック候補を明らかにしてきた。本発表では、ボトルネック解消時の高ブタノール生産メカニズムの解 明、効率的な代謝系改変方策について概説する。

 

森 浩禎(奈良先端科学技術大学院大学/慶應義塾大学先端生命科学研究 所)
「細胞内機能ネットワークの完全解明にむけて」

“What is true for E.coli is true for the elephant.” 大腸菌で『そうであること』は、象でも『そうである』、とはオペロン説で有名なJacques Monod(1910-1976)の有名な言葉です。この言葉は、現在でも生き続けています。私たちは、この大腸菌を追い続けてきていますが、1997年 に大腸菌のゲノム構造が明らかにされると、それ以前と後では、大きく研究が変わりました。ちょうど遺伝学から分子遺伝学や分子生物学に研究が広がってきた のと同じように、研究の視点や方向、方法など大きく転換期を迎え、現在は拡張している時期と言えます。分子遺伝学は、その手法により、遺伝学とは全く逆の 方向での研究を可能にしました。遺伝学は常に表現型があり、その原因遺伝子を追求する方向です。一方、分子遺伝学は、原因となる遺伝子を出発点として、そ の機能、表現型に及ぼす影響などの追求を可能にしました。『逆遺伝学』と呼ばれる所以です。
現在のシステム生物学はどうでしょう。これまでの分子 生物学手法での研究は、対象の遺伝子を出発点として、その関連遺伝子の探索、その周辺での機能ネットワークの解析など、点からの出発と言えるのではないで しょうか。ある意味、『部品の科学』あるいは、『部品からの出発』と言えると思います。ゲノムが明らかにされ、どの程度の部品で構成されているかが明らか にされ、クローンや変異ライブラリーの構築、High-throughputな研究手法の確立、bioinformaticsの発展など、全体を見渡す形 での研究が可能になりました。
これまでの『点』からの研究だったものが、『面』からの解析が可能になり、新たな視点からの研究が可能なになりまし た。
このような時代において、これまでの部品の科学を振り返りますと、『個々の部品の相互作用関係』による細胞内機能ネットワークの構造、またど れくらいの『強さ』や『早さ』で動いているのか、などの定量解析、等が欠けています。この方向の研究の必要条件を考えますと、研究の蓄積の多さ、研究ツー ルの充実、単細胞生物、が挙げられます。今、再び『大腸菌』が非常にいい研究材料であることに確信を持ち、『大腸菌を用いたシステム生物学、ネットワーク 生物学』を進めています。
解糖系のように重要な代謝経路ですが、大腸菌ですら、その全体の動きは不明のままです。また、そのように重要な経路の酵 素でありながら、そこで働く酵素の欠失を、大腸菌はほとんどの場合、簡単に受け入れます。代替経路や補償経路をうまく再構築しているものと考えられます。
私 たちは、この問題に対して、細胞内機能ネットワークの解明と定量解析によるモデル化に取り組んでいます。そのためのリソース開発やツール開発などの基盤構 築から、現在の研究の進捗状況を元に、新たな研究の展望を議論したいと考えています。

参考論文
1. Arifuzzaman, M., Maeda, M., Itoh, A., Nishikata, K., Takita, C., Saito, R., Ara, T., Nakahigashi, K., Huang, H. C., Hirai, A., et al. (2006) Large-scale identification of protein-protein interaction of Escherichia coli K-12.
Genome Res 16: 686-691.
2. Baba, T., Ara, T., Hasegawa, M., Takai, Y., Okumura, Y., Baba, M., Datsenko, K. A., Tomita, M., Wanner, B. L., & Mori, H. (2006) Construction of Escherichia coli K-12 in-frame, single-gene knockout mutants: the Keio collection. Mol Syst Biol 2: 2006 0008.
3. Ishii, N., Nakahigashi, K., Baba, T., Robert, M., Soga, T., Kanai, A., Hirasawa, T., Naba, M., Hirai, K., Hoque, A., et al. (2007) Multiple high-throughput analyses monitor the response of E. coli to perturbations. Science 316: 593-597.
4. Typas, A., Nichols, R. J., Siegele, D. A., Shales, M., Collins, S. R., Lim, B., Braberg, H., Yamamoto, N., Takeuchi, R., Wanner, B. L., et al. (2008) High-throughput, quantitative analyses of genetic interactions in E. coli. Nat Methods.
5. Butland, G., Babu, M., Diaz-Mejia, J. J., Bohdana, F., Phanse, S., Gold, B., Yang, W., Li, J., Gagarinova, A. G., Pogoutse, O., et al. (2008) eSGA: E. coli synthetic genetic array analysis. Nat Methods.


岩楯好昭(山口大・院・理工学、JSTさきがけ)
「誘引物質が無いときの アメーバ運動の極性の決定」

アメーバ運動を行う細胞は一般的に化学的な誘因物質に向かって動いていく走化性を示す。しかし、細胞は誘因物 質など無くても、形態を維持し前後の極性を自律的に作って運動している。この時、細胞がさらされている環境にある情報は、接着している基質(地面)との力 学的な相互作用のみである。この力学的な相互作用を利用して細胞が本当に運動極性を作り出せるのか、どうやって作り出すのかを検討する。


村 田正之1、藤本博子1、西村香織1、山田守1,2(1山口大・院医・ 応分生, 2山口大・農・生機)
「大腸菌における高温生育限界温度での必須 遺伝子とその発現変動」

大腸菌における熱ストレス応答研究のほとんどは42度で行われてきた。一方、我々は、高温生育限界温度での生存機 構を探るためやその知見を高温発酵等に活かすために、高温限界温度でのゲノム遺伝子発現の変動や生存に必要な遺伝子について解析をすすめている。本発表で は、高温での生育に影響を与えると考えられる高温必須遺伝子および一般的な必須遺伝子の解析について報告する。
大腸菌W3110は47度付近に生 育限界温度をもつ。この温度で生育できない遺伝子変異株を1遺伝子破壊株ライブラリーからスクリーニングし、それらの発現変動をDNAチップ等で解析し た。また、大腸菌がもつ約300個のいわゆる必須遺伝子についても同様な解析を行った。(This work was supported by PROBRAIN)


東 慶直、古谷直子、白井睦訓(山口大・院・医学系)
「酢酸菌のゲノムとフェノタイプ」

ゲ ノム解析の急速な進展とともにゲノム中の遺伝子構成を直感的に把握するためのプラットフォームも充実してきている。しかし、モデル生物でさえ全遺伝子の数 分の1が機能未知であることもあり、実際の生物のフェノタイプとゲノムから予想されるフェノタイプには多くの食い違いが存在する。そこで、最近我々が中心 になり全ゲノムDNA配列を決定した酢酸菌(NAR,2009)に関して、既存の情報解析ツールを用いて膜タンパク質遺伝子と代謝系遺伝子を「実験屋」が 使える形に整理すると共に、予想されるフェノタイプと実験事実との調整を進めている。本研究会では、酢酸菌の比較ゲノム解析とフェノタイプへの考察につい て報告する。


守屋央朗*、茅野文子、蒔苗浩司(岡山大・異分野融合先端研究コア、*JSTさきがけ)
「遺伝子綱引き法を もちいた細胞システムのロバストネス解析 」

システムが内部や外部からの擾乱にあらがって機能を維持する特性のことを「ロバストネス」と いう。ロバストネスは、生命のシステムが持つ基本的な特性であると考えられており、近年のシステムバイオロジーの中心的な研究テーマとなっている。私たち は細胞内のさまざまな遺伝子の発現を、どこまで摂動させたときに細胞のシステムが破綻するか、すなわち「遺伝子発現の摂動に対する細胞システムのロバスト ネス」を研究している。そのために遺伝子のコピー数の上限を測定する「遺伝子綱引き法」を開発し、これまで出芽酵母や分裂酵母の細胞周期における遺伝子発 現の限界を測定し、生命システムの設計原理の解明や細胞の数理モデルの改良などに用いてきた。今回の発表では、出芽酵母のゲノム上のすべての遺伝子(約 5800個)のコピー数の上限解析のスキームとそこから見えてきたゲノムの設計原理とうについて議論したい。

 

申し込み/ 問い合わせ先:
松野浩嗣(山口大学大学院理工学研究科)
matsuno AT sci.yamaguchi-u.ac.jp
電 話/FAX 083-933-5697

 

学会活動