● 巻頭言 ●






ヒトゲノムの塩基配列解読(ドラフト)が終了し、今後、遺伝子の同定と機能解析に重点が移る。言うは易いが実際には気の遠くなる作業である。わずか6000個の遺伝子しか持たない出芽酵母でさえ、1996 年に全塩基配列が解読されて以来、膨大な労力を費やしてきたのにかかわらず、機能未知の遺伝子が未だ30%近くもあることからも理解できる。肥満やアルツハイマー病など、疾患関連遺伝子が同定されてから何年も経過したにもかかわらず、創薬ターゲットを見出せないでいるケースも多い。幾つかの遺伝子群が関与して疾患のリスクを増幅したり、オルタナティブ・スプライシングなどによって遺伝子の数以上のトランスクリプトームが作られるという、絶妙なしくみが機能解析をより複雑にしている。ヒトゲノムと同等のサイズを持つマウスゲノムの解読も進められており、2001 年にはかなり使えるようになる。これらを比較すれば高い相同性を有す る領域や蛋白質をコード、レギュレーションする領域を容易に特定できる。 哺乳類では免疫、細胞分化など基本的な生体機能に関与する遺伝子配列は85%が一致するからである。ゲノム情報を基にマウスモデルを活用すれば、ヒトの疾患メカニズムの理解のみならず、薬剤評価も質的に一段と向上し、開発の成功率が上がる。 既に解読された線虫やショウジョウバエを用いた、糖尿病、中枢神経系用薬の創薬において研究成果がでている。酵母情報からFK506やシクロスポリンなどの免疫抑制剤のメカニズムも解明されようとしている。

このような比較ゲノム研究に加えて、プロテオームも注目される。発現蛋白質から上流にさかのぼれば遺伝子とドッキングできると同時に、パスウェイ解析、疾患のサロゲート・マーカーや創薬ターゲットに威力を発揮するからである。では、どれくらいの数の創薬ターゲット候補がゲノム科学によってもたらされるのであろうか?7TM 受容体、プロテアーゼ、キナーゼ、核内レセプター、イオンチャンネルなど数百―数千はあろう。これらのターゲットの多くはファミリーからなっているので、アミノ酸配列立体構造の類似性を比較モデリングする構造ゲノム科学が必須となる。共通の立体構造を探すことで機能予想し、バーチャルスクリーニングすることも可能となった。これらの膨大な情報の中から目的とする情報を引き出して、創薬研究に活用するためにもバイオインフォマティックスへの期待は高まる一方である。データベースからターゲットを探し出すためのターゲット・バイオインフォマティックス、スクリーニング、アッセイデータ、疾患における発現様式などを統合するためのファンクショナル・バイオインフォマティックス、構造ゲノム、構造活性相関、バーチャルスクリーニングなどを統合するストラクチュラル・バイオインフォマティックス… など機能分化されていくであろう。加えて、ファーマコジェネティックスにおいてゲノムワイド・スニップを用いた臨床試験が進められており、ここでもバイオインフォマティックスは不可欠である。しかしながら、この分野の人材は世界的にも不足状態が続いており、教育育成を計ることが急務である。

日本バイオインフォマティクス学会副会長  藤田芳司(グラクソ・スミスクライン株式会社)



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