● 巻頭言 ●






−バイオインフォマティクスの源流−
遡ればきりがないが、現在多用されている相同性解析(あるいは相似性解析)の源流は30年ほど前のNeedlemanとWunschのアルゴリズムにある。その当時、他の分野ではHayashiらによる生化学反応のシミュレーション研究があった。20年ほど前にはChouとFasmanによる蛋白質の二次構造の予測や、Scheragaらによる蛋白質の配座エネルギー計算、Fickettによる遺伝子構造の予測など、今振り返れば現在のバイオインフォマティクスの源流ともいえる研究が盛んになされていた。20年ほど前は、また、GoadとKanehisaらがアメリカで論文から塩基配列のデータを収集、整備していた時期でもある。その成果はDDBJ/GenBank/EMBLの源流といえる。しかし、当時は、Dayhoffらによるアミノ酸配列データベースと同様に、まだ一部の研究者にしか知られない存在ではあった。

−バイオインフォマティクスへの期待とその背景−
現在、バイオインフォマティクスへの期待が急速に高まっているが、それには二つの背景がある。一つは、塩基配列や蛋白質立体構造等の構造データの爆発的増大である。どちらもここ10年、指数関数的伸びを示してきている。1980年代には「1,000bpほどの塩基配列中に制限酵素の認識部位を見つけ出すなんて、計算機に頼る必要はなく、一目みればすぐ分かる。」という感覚があった。また、塩基配列データベースを対象にした相同性解析でGenBankからクレイムを言われる研究者もほとんどいなかった。ついで、医学・生物学データの急速な多様化がある。ゲノムそのものも多くの生物種について配列決定が終了している。マイクロサテライトやSNPといった多型情報、mRNAや蛋白質のプロファイル情報、蛋白質・蛋白質相互作用情報、代謝ネットワークを始めとする遺伝子ネットワーク情報といった多様なデータが急速に整備されつつある。

−バイオインフォマティクスの進展−
これらデータの量的増大と多様化は、必然的に医学・生物学研究者のバイオインフォマティクスへの期待を高めているが、同時に、バイオインフォマティクスを担う研究者には研究発展の基盤をもたらしている。相同性解析ではPSI-BLASTが生まれ、蛋白質の立体構造予測法ではScheragaの時代のホモロジーモデリング法をはるかに超える進歩があった。遺伝子構造予測はFickett の時代に比べ方法論的にも高度化し、明らかに洗練されている。データベースも文字列からなる比較的単純なデータとともに、文脈依存的ともいわれるプロファイルデータや遺伝子ネットワークデータの統合が進められている。さらに、遺伝統計学的解析や細胞シミュレーションも新たなデータの蓄積を踏まえ、飛躍の時を迎えている。

−日本バイオインフォマティクス学会の役割−
このような時代を迎え、日本バイオインフォマティクス学会への期待は大きく、果たすべき役割は多い。中でも、研究交流の場の提供と人材育成は重要であろう。前者については、バイオインフォマティクスそのものが異分野の融合した学問領域であるだけに特に強調されるべきであるし、後者については医学・生物学の実験研究者からの熱い要望に応える意味からも、迅速な対応が求められている。日本バイオインフォマティクス学会が時代の期待に応え、異分野交流を深めつつ、多くの多様な学生、研究者の集う場として発展していくことを願っている。

日本バイオインフォマティクス学会副会長 江口至洋(三井情報開発株式会社)




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