基調講演

斉藤先生
ノンコーディングRNA による核内構造とゲノム制御
斉藤典子 先生
公益財団法人がん研究会がん研究所がん生物部 部長
講演日:9月27日(月)
座長:浜田道昭(早稲田大学理工学術院)
細胞核内には生体膜に囲まれない構造体が様々に存在する。これらはRNAとタンパク質からなる超分子複合体で、ゲノムDNAの制御に関わると考えられるが、その詳細は不明である。
    エストロゲン受容体(ER)陽性の再発乳がんモデル細胞 (LTED, long term estrogen deprivation) においては、一群の長鎖ノンコーディングRNAであるエレノアが過剰発現し、核内で非膜型構造体のエレノアクラウドを形成し、ERをコードするESR1遺伝子の転写を活性化する。我々は、クロマチン間の相互作用を解析するHi-C法などにより、エレノアの転写が巨大クロマチンドメインTAD (topologically associating domain)を規定することを明らかにした。さらにエレノアは、ゲノム上では42.9Mbも離れているESR1遺伝子とFOXO3遺伝子の相互作用を介在し、両遺伝子を協調的に転写活性としていることを見出した。ESR1は細胞増殖のため、FOXO3はアポトーシスのための遺伝子であり、このエレノアを介したゲノム3次元構造は、再発乳がん細胞で増殖とアポトーシスという相反する活性が同時に亢進していることに貢献していると考えられる。エレノアクラウドは液-液相分離により形成される液滴であることもわかってきた。
    核小体もまた液-液相分離により形成される核内構造体である。我々は、siRNAライブラリーを用いたハイコンテントスクリーニングと機械学習を用いた画像解析wndchrmによる形態のプロファイリングを組合わせることで、リボソームタンパク質RPL5が核小体の物性とrDNAの核内3次元構造に重要であることを見出した。
    これらの結果より、核内の構造体は、高次ゲノム構造やゲノム機能に深く関わると考えられる。

佐藤先生
異分野研究者との対話から始める機械学習研究
佐藤一誠 先生
東京大学 大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻 准教授
講演日:9月29日(水)
座長:浜田道昭(早稲田大学理工学術院)
機械学習という言葉が電車の中刷り広告やコンビニエンスストアに置かれている一般雑誌の表紙に登場するようになるとは全く想像していなかったが、もはやそのようなレベルで非常に様々な分野に浸透してきている。私自身は機械学習の基礎を研究しており、現在でも基礎研究を生業としているが、10年ほど前に東大病院の先生方に声をかけて頂いたことをきっかけに、医療分野における機械学習の応用を行うようになってきた。本発表では、医療分野を中心として様々な専門家の方々との対話により行ってきた研究について3つほど紹介する。1つ目は、放射線科およびコンピュータ画像診断学の専門家の方々と取り組んできた機械学習が駆動する医用画像読影支援システムについて、東大情報基盤センターとも連携して取り組んできたプロジェクトについて紹介する。ここでは、東大付属病院でアノテーションされたデータが基盤センターのスパコン上で学習され診断支援システムとなるまでの連携について説明する。2つ目は、の専門家の方々と行った骨髄異形成症候群の顕微鏡画像分析に関するプロジェクトについて紹介する。ここでは、熊本大学を中心として日本検査血液学会九州支部の協力を得て総勢70名以上の専門家がアノテーションに参加したプロジェクトおよびその結果得られた学習データを利用して専門家の診断結果の不確実性を予測する機械学習手法の開発について説明する。最後に、光流体工学の専門家と行った機械学習が駆動する細胞分取システムの開発について説明する。ここでは、サンプル中に存在する細胞の形態情報を利用して1細胞ずつ迅速かつ高精度に分類・分取するシステムの開発について説明する。この研究は、光学の持つ特性を機械学習のアルゴリズムに組み込むことで実現しており、光学と機械学習の融合分野の実応用上の成功例と言える。