日本オミックス医学会シンポジウム

AI創薬の展開

座長:辻真吾(東京大学)

1. AIによる薬効・ADMET予測と企業間連合学習
奥野恭史(京都大学)

近年の深層学習の著しい進展を受けて、創薬におけるAIの可能性について大きな期待が寄せられている。しか しながら、AIは既存のデータを学習させて開発するため、AIの性能に大きく影響を与えるデータ量の問題が 挙げられる。特に、日本の製薬会社は、海外のメガファーマと比べると規模も小さく所有するデータ量も海外 メーカーより劣っている。そのため、ビジネス的競争関係にある複数企業のデータを共有し、高性能な創薬AI を開発することが期待されている。本講演では、薬効・ADMET予測のためのAI開発を例に、多施設のデータ 共有を秘匿性を保ちながら連合学習するAI技術を紹介するとともに、企業間でのデータ共有について議論したい。

2. 産学連携による統合創薬AIプラットフォームの構築を目指して
本間光貴(理化学研究所)

創薬の現場で実用的なAIを構築するためには、医薬品に必要となる多くの項目に対応した最先端の学習手法 の開発とともに、質(多様性)・量ともに揃ったデータセットの準備が必須となる。昨年度からAMED、理 研、京大、九工大をはじめとした研究機関、17社の製薬企業が連携して、企業内データを活用した統合創薬 AIプラットフォームの構築を開始したので紹介する。

3. 深層学習等を活用した生体内分子ネットワークの解析とその新規薬剤標的分子の探索への応用
長谷武志(システムバイオロジー研究機構/東京医科歯科大学)

生体内分子の相互作用を網羅的に記述した生体内分子ネットワークは、新規薬剤標的分子の探索やドラッグ リポジショニング等に活用されている。これまで、複雑な生体内分子ネットワークの構造を理解するために、 様々な統計的なネットワーク解析手法が開発されてきた。一方で、深層学習の手法をネットワーク解析に取り 入れることで、従来の統計的な手法のみでは捉えることが難しかった、生体内分子ネットワークに埋め込ま れた特徴を抽出できるようになりつつある。本講演では、生体内分子ネットワークの解析手法、特に、深層 学習を取り入れた解析手法について解説し、これらの手法の新規薬剤標的分子の探索への応用について紹介 する。