ワークショップ

遺伝子から飛び出せ!ネオ・マルチオミックス解析の未来

オーガナイザー:松前ひろみ(東海大学)、大林武(東北大学)

生命現象は、生態系から分子まで階層構造をもつデータとして捉えることができる。これまでのバイオインフォマティクスは遺伝子を出発点としたオミックスが中心であった。しかしオミックスの外側でも、画像解析やLinked Dataの発展などにより、表現型やオカレンスに関連した生物多様性情報学や、ヒトの行動に関連した文化データのデジタル化が著しい。もし、オミックス、生物多様性情報、文化データの統合が進めば、拡張されたバイオインフォマティクス、「ネオ・マルチオミックス解析」が必要になるかもしれない。例えば、下記のような組み合わせが想定できる。

  1. ゲノムと生物多様性情報の組み合わせから、適応進化の歴史や個体群動態を調べる研究。
  2. ゲノムと文化の組み合わせから、ヒトの文化・行動の進化を調べる研究。
  3. 文化と生物多様性を組み合わせ、蛾の工業暗化のような生物間相互作用に関する現象をヒトの文化行動・観察・遺伝情報を結びつける研究。

そこで本ワークショップでは、情報学としてオミックス、生物多様性、文化の融合を視野にいれ、各データベースの実情や解析例を紹介する。加えて将来的に想定されるネオ・マルチオミックス解析の例についても議論する。

  1. 松前ひろみ (東海大学)
    「なぜバイオインフォマティクスで生物多様性と文化を扱うのか?」
  2. 仲里猛留 (ライフサイエンス統合データベースセンター)
    「バイオインフォマティクスのデータベースに見る生物多様性情報」
  3. 神保宇嗣 (国立科学博物館)
    「生物多様性データはどのように集積されているのか」
  4. 畠山剛臣 (チューリッヒ大学)
    「倍数体穀物の遺伝的多様性と農耕/言語拡散仮説の検証」
  5. 大林武 (東北大学)
    「生物種名の言語間類似性から情報伝播の歴史を推定する」
  6. 亀田尭宙 (国立歴史民俗博物館)
    「世界の文化研究データを渉猟する」

なぜ我々はワークフロー言語を書くのか

オーガナイザー:露崎弘毅(理化学研究所)、大田達郎(ライフサイエンス統合データベースセンター)

高出力な実験装置の登場により、生命科学のデータ解析は複雑化しており、解析ワークフローを間違い無く実行するための個人の負担は大きくなっている。また、ツール・データベースのバージョンの違いから、解析結果が再現できないこと(再現性)、構築したワークフローを別環境で動作させる際に、再インストール作業のコストが高いこと(可搬性)、計算資源が足りない時に、分散環境で再実行するためのコード書き換えコストが高いこと(スケーラビリティ)などが問題となっている。そのためどのようなデータ解析においても統一的枠組みでワークフローを記述・実行するために、2010年代頃からワークフロー言語が提案されている。幾つものワークフロー言語が提案される一方で、初めてワークフロー言語を書くユーザーとしては、自分のタスクにどの言語が適しているのを見極めることは難しい。そこで、本セッションでは実際にワークフロー言語を日常的に利用しているワークフロー開発者やユーザー達に、各言語の書き方や利用の仕方、なぜその言語を選んだのか、現場での実際の利用シーン、その言語の将来性等を語ってもらい、言語ごとのメリット・デメリットを比較検討する。

講演(各10分)

  1. 尾崎遼 (筑波大)、芳村美佳 (理化学研究所)
    「事例紹介: Nextflow」
  2. 小金渕佳江 (東京大)
    「事例紹介: nf-core」
  3. 露崎弘毅 (理化学研究所)、山本謙太郎 (理化学研究所)
    「事例紹介: Snakemake」
  4. 田高周 (東北大)
    「事例紹介: Workflow Description Language (WDL)」
  5. 石井学 (Genome Analytics Japan)、藤野健 (東京大)、八谷剛史 (Genome Analytics Japan)
    「事例紹介: Common Workflow Language (CWL)」
  6. 末竹裕貴 (東京大)
    「話題提供: Workflow Execution Service (WES)」

質疑応答と総合討論(20分)


メタボローム解析に資する質量分析インフォマティクスの若手研究

オーガナイザー:山本博之(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社)、早川英介(沖縄科学技術大学院大学)

JSBi公募研究会である質量分析インフォマティクス研究会 (JCompMS; Japan Computational Mass Spectrometry)は、日本のこの分野の研究者コミュニティとして2016年4月に設立された研究会であり、これまで公開ワークショップ・ハッカソン・ソフトウェア講習会といった活動を行ってきた。これらの会を通じて様々な期待が寄せられる中で、特に若手研究者にこそ質量分析インフォマティクスに参入することを望む声が多かった。 そこで本セッションでは、若手研究者にスポットライトを当て、ノンターゲットリピドミクス法の開発やデータの比較解析といった、リピドミクスにおける質量分析インフォマティクスにおける課題とその解決法、また機械学習を用いた未知ピークのアノテーションや、リポジトリのメタボロームデータの統合解析といった、近年めまぐるしく発展している質量分析インフォマティクスの最先端の研究を紹介して頂く。本セッションを通して、講演者と同世代のバイオインフォマティクス分野もしくはウェットの若手研究者が、積極的に質量分析インフォマティクスに参入することを期待したい。

  1. 松田りら (慶應義塾大学)
    「ネットワーク解析に基づくがんメタボロームデータの統合解析」
  2. 内野春希 (慶應義塾大学)
    「質量分析インフォマティクスによる新たなノンターゲットリピドミクス法の開発」
  3. 松沢佑紀 (東京農工大学)
    「質量分析インフォマティクスによる様々な分析手法で取得したリピドミクスデータの比較解析」
  4. 田中弥(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ)
    「量子化学計算と機械学習を組み合わせた化合物フラグメンテーションの予測」

人工知能と生命誌に基づく生命医科学のためのバイオインフォマティクス

オーガナイザー:阿久津達也(京都大学)

特定非営利活動法人(NPO)バイオインフォマティクス・ジャパンでは、バイオインフォマティクス技術を広く社会に普及させることを目的の一つとして活動しております。本ワークショップでは、その活動の一環として、生命科学・医科学への応用を目的としたバイオインフォマティクスについての多様なアプローチについて、当NPOの役員に講演していただきます。具体的には、生命誌という観点から新たなゲノム像構築のための課題とバイオインフォマティクスへの期待、遺伝子ネットワークや代謝ネットワーク解析などの生命科学におけるグラフ構造データ解析のための機械学習技術、データ駆動型機械学習技術とそのドラッグリポジショニング・パスウェイ構築・ダイレクトリプログラミング・医薬品分子構造設計への応用、東大医科学研究所における全ゲノムシークエンス解析とIBM Watson for Genomicsによる臨床応用、および、その経験から得られた人工知能を用いたがん研究の新たな方向性、について講演していただきます。

  1. 平川美夏 (JT生命誌研究館)
    「生命誌とバイオインフォマティクスが描く21世紀のゲノム像」
  2. 馬見塚拓 (京都大学)
    「バイオインフォマティクスのためのグラフによるデータ統合型機械学習」
  3. 山西芳裕 (九州工業大学)
    「機械学習によるデータ駆動型研究が拓くヘルスケア」
  4. 宮野悟(東京医科歯科大学)
    「がん研究とバイオインフォマティクス」

ヒト全身代謝シミュレーションの最前線

オーガナイザー:前田和勲(九州工業大学)、杉本昌弘(東京医科大学)

多臓器にわたる全身性疾患の個別化医療の実現には、複数の臓器を包含したヒト全身代謝シミュレーションモデルの構築が不可欠である。しかし、そこに至るまでには、(i) 細胞や臓器の状態をどのように測定するのか、(ii) 測定したオミクスデータから新しい知見をどのように抽出するのか、(iii) その知見をどのように数理モデルに統合するのか、といった課題がある。このワークショップでは、仮想人体の構築においてバイオインフォマティクスが果たすべき役割を議論する。

  1. 倉田博之(九州工業大学)
    「仮想ヒト全身代謝モデルの開発と医療への応用」
  2. 松崎芙美子(九州大学)
    「肝臓インスリン応答の時系列トランスオミクス解析」
  3. 羽賀雅俊(ロート製薬、大阪大学)
    「 時系列オミクスデータを用いたヒトの皮膚老化数理モデルの構築 」
  4. 川西潤(早稲田大学)
    「 腫瘍成長における圧力因子の寄与および投薬戦略 」
  5. 吉澤美沙(東京大学)
    「 肝線維化の動態解明に向けたin silicoモデルの開発 」