イベント案内:研究会・応用システムバイオロジー研究会

第2回応用システムバイオロジー研究会 "細胞内ネットワークのアトラクターとダイナミクス"


日時: 2011/3/9(水) 13:00-18:00
場所: 京都大学 宇治キャンパス 総合研究実験棟 2階CB207室
( http://www.bic.kyoto-u.ac.jp/index_J.html )
参加費: 無料 (JSBi への会員登録不要)、
但し懇親会は有料 (申込: morihiro AT kuicr.kyoto-u.ac.jp)


13:00-13:40
「ブーリアンネットワークと確率ブーリアンネットワークの定常状態計算と制御」   
阿久津 達也 (京都大学化学研究所)

13:45-14:05  第2回研究会趣旨説明、およびチュートリアル「ブーリアンネットワークのアトラクター」
林田 守広 (京都大学化学研究所)

14:05-14:25 チュートリアル「シグナル伝達ネットワークと数理モデル」
     毛利 一成 (理化学研究所・基幹研究所)

14:25-14:45 「PC12細胞応答のゆらぎとべき乗則」
     毛利 一成 (理化学研究所・基幹研究所)

15:00-15:40 「ネットワーク構造の違いにより現れるブーリアンダイナミクスの特徴」
     木下 修一 (明治大学GCOE(現象数理学の形成と発展))

15:40-16:20 「ゆらぎの中の情報処理と確率分岐現象」
     小林 徹也 (東京大学生産技術研究所)

16:40-17:20 「生体分子ネットワークの構造とダイナミクス」
     望月 敦史 (理化学研究所・基幹研究所/東京工業大学・総合理工学研究科/JST・さきがけ)
17:20-18:00 「幹細胞の分化ダイナミクスを生み出す制御ネットワークの探索」
     古澤 力 (大阪大学情報科学研究科)

閉会挨拶

懇親会(二千円程度、会場近辺を予定)


お問い合わせ先:
京都大学 化学研究所 バイオインフォマティクスセンター
生物情報ネットワーク研究領域
林田 守広 morihiro AT kuicr.kyoto-u.ac.jp

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講演概要


阿久津 達也 (京都大学化学研究所)
「ブーリアンネットワークと確率ブーリアンネットワークの定常状態計算と制御」
生命システムは非線形な要素を含むため、非線形システムの解析法や制御法の開発はシステム生物学の発展のために重要である。ブーリアンネットワーク(BN)は遺伝子ネットワークの離散的な非線形数理モデルの一つであり、確率ブーリアンネットワーク(PBN)はその確率的な拡張である。BNにおいて異なる定常状態(アトラクター)は異なる細胞に対応するとされ、その分布などについて多くの研究が行われてきた。我々は近年、PBNへの拡張も含めアトラクターの計算法について研究を行い、単純な手法より高速な計算手法を開発してきた。一方、我々はBNやPBNの制御という問題にも取り組んできた。特に整数計画法を用いた手法などを開発してきたが、PBNで最適制御を行おうとすると整数計画法などの手法が有効
に適用できないことも判明した。本講演では、これらの結果について説明するとともに、代謝ネットワークのBNを用いたモデル化とそのロバスト性解析に関する結果について紹介する。


毛利一成 (理化学研究所・基幹研究所)
「PC12細胞応答のゆらぎとべき乗則」
PC12細胞はその形態から細胞運命を判断できるモデル生物である。この細胞は増殖因子であるEGF刺激により増殖し、NGF刺激により分化することが知られているが、細胞応答の速度やどの程度のゆらぎが存在しているかといった詳細な定量解析は行われてこなかった。我々はまず、様々な培養条件におけるEGF/NGF刺激後の各細胞状態の細胞数の時系列データを計測した。一方細胞応答に関する状態遷移モデルを微分方程式により構築し、MCMCを用いた実験データとのフィッティングによりモデルパラメータの推定を行った。これにより、増殖・分化・細胞死の速度とそのゆらぎを定量化することができ、培養環境依存的なEGF/NGF応答変化の特徴と細胞運命決定の不均一性の程度が明らかとなった。さらに実験データにおいて細胞数の平均値と分散の間にはべき乗則の関係が見られることが示唆されたため、上記モデルを拡張し確率モデルを構築することでモデルの平均値と分散のシミュレーション値を計算した。その結果推定されたパラメータを用いた確率モデルでは実験データと同様に平均値と分散の間にべき乗則の関係が見られた。以上の結果から本モデルは実験データの様々な側面と一致しており本モデルの妥当性を示唆している。最後に、推定されたパラメータの値を系統的に比較することにより、細胞応答のゆらぎの生物学的意義を検討する。


木下 修一 (明治大学GCOE(現象数理学の形成と発展))
「ネットワーク構造の違いにより現れるブーリアンダイナミクスの特徴」
ランダムブーリアンネットワークモデル(RBN)は細胞内の単純な遺伝子ネットワークモデルとして研究されている。RBNでは遺伝子がお互いの発現をランダムに調節している状況を想定しており、細胞は一様なランダムネットワーク上でのアトラクターとして表現される。一方、近年実際の遺伝子ネットワークは一様なネットワークというよりむしろ揺らぎの大きい非一様なネットワーク構造を持つ事が分かってきた。そこで、我々は非一様なネットワーク構造がアトラクターの特徴に与える影響を明らかにするため、数値計算により一様なランダムネットワーク上のRBNとスケールフリーネットワーク上のRBNのダイナミクスについて比較した。
本講演では、(i).Basinの特徴の違い、(ii). アトラクターの安定性(ロバストネス)の違い、(iii).
コアネットワークの特徴の違い、の3点を中心に紹介したい。


小林 徹也 (東京大学生産技術研究所)
「ゆらぎの中の情報処理と確率分岐現象」
ミクロな生命現象は非常に多様な内因的・外因的ゆらぎにさらされている。にもかかわらず発生過程や免疫現象をはじめとしたマクロスケールの現象は非常に安定でありかつ恒常的にその機能を維持している。またスケールを変えてみれば、単細胞生物における細胞内反応のゆらぎと1細胞レベルでの機能にも同じようなミクロレベルでのゆらぎとマクロレベルでの安定性・恒常性が存在している。この素子レベルでのゆらぎとシステムレベルでの安定かつ恒常的な機能性と関係を結ぶロジックは、古くから注目されているにもかかわらず未だ実験的のみならず、理論的にも明らかにはなっていない。
本発表ではこのような問題に対する新しいアプローチとして、情報理論や統計学などの数理手法を用いて、システムの持つ機能を実現するための
ミクロなメカニズムをトップダウン的に導く。そして導出されたメカニズム自体が持つ確率過程としての特性や実際の生命現象との対応を吟味することにより、ミクロなメカニズムとマクロな機能との間を両方向から理解することが可能になることを示したいと思う。
より具体的には、分化や免疫応答、細胞走性などに代表されるような、ノイズの存在下において的確に細胞が運命決定をする現象に焦点を当て、最適な運命決定に必要なミクロなダイナミクスを導出する。導出されたダイナミクスが、様々な細胞内運命決定現象の反応ネットワークと対応性を持っていることを明らかにするとともに、そのダイナミクス自体が非常に興味深い分岐特性をもつことも示す。時間があれば、それらの間に存在する数理的な構造についても議論したい。


望月 敦史
(理化学研究所・基幹研究所/東京工業大学・総合理工学研究科/JST・さきがけ)
「生体分子ネットワークの構造とダイナミクス(Structure of regulatory networks and dynamics of
bio-molecules)」
生命現象の様々な局面において、多数の生体分子が相互作用の複雑なネットワークを作り、そのシステム全体のダイナミクスから、生理機能や形態形成などの高次機能が現れることが分かってきた。しかし、相互作用ネットワークの構造が、分子の活性ダイナミクスに対して、どの様な影響を与えるのか、或いはどの様な意味を持っているのか、といった理解はほとんど進んでいない。私は、実験的に得られた生体分子相互作用の情報から、活性ダイナミクスの全体像を捉える理論を考案した。さらにこの理論を用いて、既知の制御と生体分子活性の情報から、未知の制御を予測することも可能だと分かった。基本アイデアはしごく簡単であり、「各生体分子の活性ダイナミクスは、それを制御する因子の活性状態の関数である」、という自明の論理だけを用いる。この考えには二つの側面があり、生体分子活性状態の「不和合性(incompatibility)」、及び「独立性(independency)」と名づけた。前者の「不和合性」の性質によって、活性状態の定常状態の可能性を絞り込み、可能な状態数の上限を決定できる。一方で後者の「独立性」から、分子の活性状態の可能な組み合わせについての条件を導くことができる。例えば、ホヤの初期発生にかかわる遺伝子ネットワークを解析したところ、多数の遺伝子を含む制御ネットワークの中から、遺伝子発現多様性に重要な、ごく少数の遺伝子を抽出できた。さらに遺伝子発現パターンの情報を取り入れることで、未発見の遺伝子発現制御を予測できた。その他、シグナル伝達系における生体分子反応など、複数のネットワークを対象にした解析を紹介する。


古澤 力 (大阪大学情報科学研究科)
「幹細胞の分化ダイナミクスを生み出す制御ネットワークの探索」
多細胞生物を構成する多様なタイプの細胞が、どのような機構によって出現し維持されているかを理解することは、現代の生物学の重要なテーマの一つである。また、近年の幹細胞研究の進展により、幹細胞が持つ分化能について理解することへの関心が集まっている。そうした問題に対して本研究では、多細胞生物を内部ダイナミクスを持つ細胞が動的に相互作用している系として捉え、いかにしてその相互作用の中から多様な細胞状態が出現し得るか、その機構を計算機実験によって検証した。少数の遺伝子からなる発現制御ネットワークを内部に持つ細胞モデルを構築し、可能な全ての制御ネットワークについて、それがもたらす発生過程のシミュレーションを行ったところ、分化能を持つ幹細胞タイプの細胞は
複雑に振動する発現ダイナミクスを持つこと、そしてそのダイナミクスを生み出し得る制御ネットワークの共通の構造などが見出された。実際の幹細胞の系において、予想された振動的な発現ダイナミクスが同定されつつあることを含め、計算機実験ベースの細胞分化研究の可能性について議論する。