学会活動

第25回システム バイオロジー研究会開催のお知らせ

2010.01.14

第25回システムバイオロジー研究会を1月14日(木)に、理化学研究所横浜研究所にて開催いたしま す。
近年の実験技術の向上に伴い、得られる生物データは質、量ともにますます豊富になり、既存のパッケージ化されたデータ解析手法を適用すること が難しい状況が様々に生じています。今後のシステムバイオロジー研究においては、データの解析に携わる情報系の研究者と現場の生物学研究者がコミュニケー ションを密にとり、オーダーメイドのデータ解析手法の開発を通じて、実際の問題に対処することがますます重要になることが予想されます。

今 回の研究会では、「システムバイオロジーと統計科学の融合に向けて」というテーマのもと、主に統計学を専門とする情報系研究者、実際の生物データを解析し ている生物系研究者に講演をしていただきます。多くの方のご参加をお待ちしております。


開催日:2010年1月14日(木)
開 催時間:13時30分~17時30分
開催場所:理化学研究所 横浜研究所 交流棟ホール
参加費:会員無料、非会員2千円(学生千円)

* 特に事前申し込みは必要ありません。研究会の後に開催される懇親会への参加希望の方は事前にご連絡ください。

申し込み/問い合わせ先:
白 石友一(独立行政法人理化学研究所 細胞システムモデル化研究チーム)
E-mail : yshira AT riken.jp

ス ケジュール:

(13:30 - 13:40)

開会のあいさつ

(13:40 - 14:20)

免 疫システムのマルチスケール的理解と制御
小原 收(理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター 免疫ゲノミクス研究グループ:かずさ DNA研究所 ヒトゲノム研究部)

免疫系は高度に組織化された生体システムの一つであり、その機能の多くが生体内を循環する血球細胞に よって担われていることから、極めて動的な性格と高度なマルチスケール性をもつのが特徴である。免疫系の破綻は様々な疾患の原因となるため、そのシステム 維持機構の理解は疾患克服のための鍵を握ると考えられているが、このような複雑性が免疫系を従来の還元論的なアプローチで解明することを困難にしている。 更に、ヒト個体レベルでの免疫系には個人差があり、またアレルギー疾患などのような環境要因の占める割合の多い疾患の解析は、決定論的なアプローチではな く統計的なアプローチに依存せざるを得ない。今回の研究会では、現在どのような知見が免疫系のシステム的理解のために蓄積されつつあるかを説明し、その後 に臨床・基礎免疫・アレルギー研究者が解明したいと考えているいくつかの疾患について、私が考える統計科学的なアプローチとの関わりについてご紹介した い。こうした目的意識は必然的に免疫系をマルチスケールに捉えることを要求しており、システムズバイオロジーや統計学の視点から何が可能であるのかを参加 者の皆さんと議論させていただくことを期待している。


(14:20 - 15:00)

癌研究における高次元オミ クスデータ解析:言いたいことと言えること
大羽成征 (京都大学情報学研究科 システム科学専攻 システム情報論講座 論理生命学分野)

癌 研究において各症例の臨床診断情報と高次元オミクスデータとを関連付けて解析するとき、データから統計的に言えることはどうしても限られており、生物学的 に言いたいこととの間には常にギャップがあります。このギャップを少しずつでも埋めてゆくために行った最近の試みについてご紹介し、議論させて頂きたいと 思います。
(1)予後予測に基づく病理診断の問題では、言いたいことは診断精度の高さです。しかし、高次元少数データ(P>>N)問 題特有の困難から、診断精度予測自体の精度にも疑いが残ります。ここに安全マージンを入れる試みをご紹介します。
(2)単一マーカーとなり得る有 意遺伝子を多数候補中から検出する問題は偽陽性制御を第一の目的とした多重検定問題となっていますが、一方でスクリーニング用途であれば偽陰性を少なくす る方向の工夫も必要です。多重検定における検出力最大化の理論(ODP) とその応用についてご紹介します。
(3)時間があれば、こうした解析に おけるベイズ的事前知識利用と、その問題点に関する議論にも触れたいと思います。

(15:00 - 15:10)

休憩

(15:10 - 15:50)

ゲノムワイドSNPデータベース解析による毛髪の形態決定遺伝子の探索
藤本明洋 (理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 情報解析研究チーム)

近年の著しい公開データの増大により、データ解析から効率的に遺伝子探 索を行うことが可能になった。我々は、データベース解析から人類集団の表現型の差異に関する遺伝子を同定することを目的として研究を行った。
毛髪 の形態は人類集団間で最も分化している形質の一つである。アジア系、アフリカ系、ヨーロッパ系の集団間で、縮れの程度や太さに大きな違いが観察されてい る。しかし、毛髪の形態決定遺伝子は同定されておらず、また、毛髪の形態の進化史も明らかでない。
我々は、HapMap データベースを解析し、集団間で高い遺伝的分化を示す遺伝子を候補として、インドネシア、タイおよび日本人集団の毛髪の形態(太さ、断面の形状)と関連解 析を行った。その結果、EDAR (ectodysplasin A receptor)遺伝子上のアジア人集団特異的なSNPにおいて、毛髪の太さとの強い関連が観察された。また、ルシフェーラーゼアッセイから、この SNPが下流の転写因子NK-kBの活性化能に影響することが示唆された。さらに、周辺領域の連鎖不平衡を解析した結果、EDARはアジア集団特異的な自 然選択によって進化したと考えられる。また、最近、EDARはアジア人に特徴的なシャベル型切歯の形態とも関連することが示されており、EDARはアジア 人を特徴づける形態に関連する遺伝子の一つであると考えられる。
次世代シークエンサーの登場により、大量データを用いた全ゲノム集団遺伝学解析が 可能となりつつあり、同様の手法を用いて人類集団間の違いを特徴づける遺伝子の同定ができるようになると考えられる。

(15:50 - 16:30)

統計科学と実験システム生物学の融合が実現するバイオマーカー探索
井元清哉 (東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター DNA情報解析分野)

(16:30 - 16:40)

休憩

(16:40 - 17:20)

生細胞イメージングとコンピュータ画像処理を利用した細胞・発生動態の定量データの解析
大浪修一 (理化学研究所 基幹研究所 発生システムモデル化研究チーム)

動的な現象を理解するためには現象の定量化が必須である。細胞の活動や多 細胞生物の発生は、遺伝情報に支配された時間的空間的に動的なプロセスである。細胞や胚を生きたまま観察する生細胞イメージング技術と顕微鏡動画像から細 胞の構造や形態を認識するコンピュータ画像処理技術の発達により、近年、細胞や発生の動態についての様々な定量データの取得が可能になってきている。これ らの細胞・発生動態の定量データの解析は、バイオインフォマティクス研究の今後の重要な課題である。本講演では、4次元微分干渉顕微鏡撮影技術とコン ピュータ画像処理技術を活用して独自に開発した、胚の細胞分裂ダイナミクスについての定量データを取得する装置を用い、我々が進めている遺伝子ノックダウ ン線虫C. elegans胚の細胞分裂ダイナミクスの情報解析について紹介する。更に、遺伝子ノックダウン胚の細胞分裂ダイナミクスの情報解析における公共動画像 データの利用や、生化学反応ネットワークと生物物理反応ネットワークの統合的な理解についても議論したいと考えている。

 

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