第5回生命医薬情報学連合大会(IIBMP2016)

3学会合同セッション

3学会合同セッション

日本バイオインフォマティクス学会(JSBi)、日本オミックス医療学会、情報計算化学生物学会(CBI学会)の3学会合同企画として以下のセッションを開催します。

ゲノム医療の実現に向けたバイオインフォマティクスのロードマップ
日時:9/30(金)17:30-19:00
会場:プラザ平成 国際会議場
オーガナイザー:荻島創一(東北大学東北メディカル・メガバンク機構)

「日本再興戦略」改訂 2015において、医療におけるゲノム情報の利活用に向けた諸課題について検討を進め、個々人の体質等に適した「ゲノム医療」の実現に向けた取組みを推進するとされ、これを受けて、健康・医療戦略推進会議の下に設置された「ゲノム医療実現推進協議会」がわが国のゲノム医療実現に向けた課題等が中間とりまとめ(平成 27 年 7 月)を公表し、日本医療研究開発機構がゲノム医療実現推進プラットフォーム事業や臨床ゲノム情報統合データベース整備事業を開始しました。こうしたなか、ゲノム医療の実現に向けたバイオインフォマティクスの重要性は増しています。本セッションでは、ゲノム医療の実現に向けて、バイオインフォマティクスの研究開発がどうあるべきか、そのロードマップを議論したい。

パネリスト:
末松 誠(日本医療研究開発機構)
宮田 俊男(日本医療政策機構)
鈴木 蘭美(エーザイ)
瀬々 潤(産業技術総合研究所)
田中 博(東北大学東北メディカル・メガバンク機構)
今井 健(東京大学大学院医学系研究科)
河添 悦昌(東京大学大学院医学系研究科)

なお、ゲノム医療の実現に向けたバイオインフォマティクスのロードマップについて、皆さんのご意見を募集していますので、こちらからお寄せください。
https://goo.gl/ILRc4y

 
・AMEDのミッション:情報共有による医学研究開発の推進に向けて
演者:末松 誠(日本医療研究開発機構)

AMEDは、3つのLIFE(生命・生活・人生)を包含する医療研究開発の推進によって、一分一秒でも早く研究成果を社会に実装することを目的として昨年4月にスタートした。これまで3省庁に計上されてきた医療分野の研究開発に関する予算を集約して基礎から実用化まで一貫した研究マネジメントを行うとともに、限られた事業費を効果的に運用する制度への変更を推進してきた。AMEDは発足して最初のリーディングプロジェクトの一つとして「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」を立ち上げた。有効な検査・治療法が見つからない、その疾患の専門家がほとんどいない等、様々な困難に直面している未診断疾患の患者さんの診療に必要な体系的医療システムと患者情報を収集蓄積・開示するシステムの構築、そして研究開発の促進を目指すものである。数ある医療研究領域からこの領域に着手した背景には、従来の医療研究開発の多くの課題を改革する糸口が多く存在し、大学改革の課題も包含しており、IRUDにおける課題解決は他の研究領域への大きな波及効果が期待できる。データベースの構築とデータシェアリングは領域を超えて解決すべき重要な課題の一つである。「疾病克服に向けたゲノム医療実現化プロジェクト」では、ゲノム情報のシェアリングに係る方針を示した「ゲノム医療実現のためのデータシェアリングポリシー」を策定し、平成28年度から公募を開始する事業に適用するといった取組も進めている。今後、人類の脅威である多剤耐性菌のサーベイランスなど、Big dataを活用した医療研究開発にはデータ入力者へのインセンティブ、リアルタイムのデータ更新、明確な目的設定や国際連携が重要であることは論を待たない。Sinet-5のような学術用高速情報ネットワークの活用も喫緊の課題である。講演では機構が取り組んでいるこれら施策について概説するとともに、今後の展望と課題について論じたい。

 
・ゲノム医療の実現に向けた医療政策とバイオインフォマティクスへの期待
演者:宮田 俊男(日本医療政策機構)

政府は医療改革をかなりのスピードで進めており、医薬品、医療機器、再生医療等製品、ゲノム医療、ICT、IoT産業の活性化を推進している。健康医療戦略推進法が成立したとともに、2015年4月には日本医療研究開発機構(AMED)がスタートし、同時に医療法も改正され、臨床研究中核病院が法的に指定されている。従来の特定機能病院と違い、臨床研究に関連する人材や体制について高い要件が課されており、指定された臨床研究中核病院は実用化やビッグデータ解析の拠点として重要な位置づけとなることが期待されている。ゲノム医療についてもタスクフォースが設置され、次世代ゲノムシークエンサーの実用化についても方向性が示された。一方で医薬品開発、市販後調査、安全性データ管理とリアルワールドデータ、ゲノムコホートを融合していくためには、改正個人情報保護法の実際の運用の方向性や臨床研究の法制化等まだまだ課題は多い。海外のグローバルなプレシジョン・メディシンの流れも踏まえつつゲノム医療政策の現状と今後のバイオインフォマティクスへの期待についてプレゼンしたい。

 
・講演
演者:鈴木 蘭美(エーザイ)

ゲノムやさまざまなオミックスデータ等に基づいて、「薬は10人中10人に効く」、しかも「薬の副作用はない」という世界を実現することを期待しています。例えばがんの薬が、100人中30人にはとても良く効とします。完全寛解が数年継続され、30人中の15人に関しては副作用も殆どなかったとすると、この薬はその15人にとっては特効薬であり価値が高いと判断できます。一方同じ薬が100人中10人には全く効果を示さず副作用が生じたとすると、この10人にとっては薬の価値は極めてマイナスです。治験では、診断名、治療暦、転移の有無などが同様の患者さんに参加いただき、場合によってはバイオマーカー等で更なる均一化を試みるにも関わらず、薬の効果や安全性にはばらつきが生じます。人の体やがんには我々がまだ知りえない沢山の謎が存在するわけですが、これを紐解く重要な手段のひとつがゲノム等のオミックスデータと臨床データのバイオインフォマティックスではないでしょうか。これには、それぞれの患者さんが通常の治験以上に深く解析される必要がありますので、企業による「製品の承認に向けた規制当局へのデータ創出」の一環として行うよりも、リアルワールドの患者さんにご協力頂くことが現実的だと思います。今から薬の効果を丁寧に確かめ、効いていない薬は止めて他の薬に移行するとともに、どの薬がどのような患者さんに効いたのかというエビデンスを蓄積すれば、将来的には、患者さんに最適な薬を事前に調べて選択できるようになります。ゲノム医療の観点から重要な点は、他にもいくつかあります。難病、健康や長寿から学ぶポジティブバイオロジーなども今回の講演でお話させて頂きます。

 
・講演
演者:瀬々 潤(産業技術総合研究所)

ゲノム医療実現に向け、人工知能(AI)による医療診断のサポートや、ゲノム医療を支える基礎科学の解析推進が期待され、高い期待が良せられています。また、新聞報道からは、今すぐにでもAIが医療診断可能であるかのような錯覚を感じます。しかし、期待と妄想が先行している状況であり、それらは一朝一夕には実現できることではありません。本講演では、ゲノム医療に向けた計算機科学に対する期待と現実のギャップを紹介し、その上で、ゲノム医療実現が計算機の力を得て到達すべき目標の提示と、それに向けて必要な要素を明らかにします。

 
・ビッグデータ、人工知能のゲノム医療への貢献
演者:田中 博(東北大学東北メディカル・メガバンク機構)

次世代シーケンサの急速な進展によって、全ゲノム配列情報を始めとして高精度の網羅的分子情報が大量に低コストで収集されるようになり、今やゲノム医療の統合的データベースやゲノムコホートにおいて「網羅的生命情報のビッグデータ」が蓄積されつつある。網羅的生命情報ビッグデータの収集の目的は、従来型の医療情報のビッグデータの収集と違って、population医学的な集合的なレベルでの知識を見出すためではなく、同一の病名で括られる疾患が、どれだけの疾患機序の個別化(層別化)パターンを内在しているかを悉皆的に明示することを目的としている。これらのビッグデータから知識を抽出する際の問題点は、網羅的生命情報は、データ構造が「p>>n」すなわちデータの変量数がサンプル数をはるかに上回ることである。Compositionality(構成性)原理のもと、内在的構造を取り出すビッグデータ解析法が必要であり、Deep Learningを始めとするDomain世界の内在的な構成を自己学習する近年の人工知能の革新的進展が期待される。

 
・EHR-driven Phenotyping 研究の現状と今後の展望
演者:今井 健(東京大学大学院医学系研究科)

GWASやPhe-WASへの利用を目的として、電子的に蓄積が進む診療情報から特定の疾患や状態を持つ患者集団を自動的に特定する、いわゆる EHR-driven Phenotyping 技術の需要が高まっている。海外では2010年前後から様々なアルゴリズムの開発が盛んになり、最近では国内でも研究が進められつつある。また同一疾患内の、より細かな病態の違いを対象にしたDeep Phenotyping 研究も始まっている。本発表ではこれらEHR-driven Phenotyping 研究の現状と今後の展望について述べる。

 
・クリニカルゲノムシーケンスの臨床応用への期待と課題
演者:河添 悦昌(東京大学大学院医学系研究科)

日常臨床で行われるがん治療に関する遺伝子検査は、特定の遺伝子で生じる一部の変化を調べるものであるが、近年、米国や一部の国内施設においては、がん関連遺伝子変異を網羅的に解析することによって、個別のがんに最適な治療を選択する「クリニカルシーケンス検査」が広がりを見せている。本発表では、このようなクリニカルシーケンス検査を実臨床に応用することで得られる期待と課題について検討する。