日本バイオインフォマティクス学会 2020年年会 第9回生命医薬情報学連合大会(IBMP2020)

企画セッション

開催日時 タイトル
9/1(火)13:00〜14:30

【PRISM創薬AI】
座長:進藤順紀(医薬基盤・健康・栄養研究所)

9/1(火)14:45〜16:15

【創薬現場】
座長:山西芳裕(九州工業大学)

9/2(水)9:15〜10:45

【マルチオミクス】
座長:竹本和広(九州工業大学)

9/2(水)14:45〜16:15

【未病・先制医療・健康長寿】
座長:沖真弥(京都大学)

9/3(木)9:15〜10:45

【シングルセル】
座長:尾崎遼(筑波大学)

9/3(木)9:15〜10:45

【ケモインフォマティクス】
座長:西郷浩人(九州大学)

企画セッション 詳細

PRISM創薬AI(9/1(火)13:00〜14:30)

現在の新薬開発は、複数の機能分子や環境要因が関与する難病・稀少病等の複雑な疾患へとシフトしています。そのため、従来の遺伝子解析や動物実験頼みのアプローチでは新たな創薬ターゲットを見出すことが困難であり、「創薬ターゲットの枯渇」が産業界の深刻な問題となっています。そこで、本事業においては、IPFを含む間質性肺炎及び肺がんを対象疾患とし、それらの臨床情報(診療情報及び患者検体のオミックス情報)から新たな創薬ターゲットと患者層別化バイオマーカーを探索するためのAI開発を行っています。

本事業は、平成29年に厚生労働省の事業として医薬基盤・健康・栄養研究所で開始され、平成30年からは内閣府による「官民研究開発投資拡大プログラム (PRISM) 」の対象施策に採択されたことを受けて新たに理研 AIPセンター、JST AIPネットワークラボ及び産業技術総合研究所などとも連携して行われています。

本セッションでは、開発中の代表的なAIに加え、医療情報からの情報抽出・構造化についての取り組みを紹介いたします。

  • タイトル
    PRISM「新薬創出を加速する人工知能の開発」 ~これまでの歩みと将来展望~
    講演者名
    神戸大学 榑林 陽一
  • タイトル
    臨床情報からのデータ駆動的な患者層別化に向けて
    講演者名
    医薬基盤・健康・栄養研究所 夏目 やよい
  • タイトル
    PRISM肺がんプロジェクトの進捗と今後の戦略
    講演者名
    国立がん研究センター研究所 浜本 隆二
  • タイトル
    医療テキスト構造化のための言語・知識処理基盤の構築
    講演者名
    京都大学 黒橋 禎夫
  • タイトル
    オミックスデータから創薬ターゲットを予測する機械学習
    講演者名
    九州工業大学 山西 芳裕

創薬現場(9/1(火)14:45〜16:15)

  • タイトル
    バイオインフォマティシャンは製薬企業で何ができるのか?
    講演者名
    小野薬品工業株式会社 吹田 直政
    要旨
    創薬における最大の課題は、ヒトがブラックボックスということに尽きる。臨床試験における投与時の応答を予測することは現在も困難であり、どれだけ費用と期間をかけた新薬候補も、期待した成績が得られなければプロジェクトは中止となる。我々は、この忖度の通用しない世界でバイオインフォマティクスを活用したチャレンジを続けている。ヒトゲノム解析やトランスクリプトーム解析によって薬がなぜ効くのかを分析し、これを研究開発プロセスに反映させることで、成功確率の向上につなげたいと考えている。具体的な解析事例の紹介を通じ、バイオインフォマティシャンが製薬企業で何ができるのかを感じていただきたい。
  • タイトル
    データ駆動型創薬とドラッグリポジショニング
    講演者名
    田辺三菱製薬株式会社 齊藤 隆太
    要旨
    創薬の生産性は1950 年から2010 年の60 年で約1/80 まで低下した。この低下した創薬の生産性を改善するためにデータや計算科学技術を活用したプロセス変革として、データ駆動型創薬の実現が求められており、各製薬企業で積極的に実践されている。一方で、生産性の高い創薬アプローチとして、ヒトでの安全性や薬物動態プロファイルが把握できている市販品・開発品の新しい薬効を発見し、他の適応症で開発するドラッグリポジショニングが注目されている。ドラッグリポジショニングによって、通常10年以上かかる創薬の研究開発期間を約5年短縮するとともに、安全性や薬物動態の問題で開発が失敗するリスクを回避することが期待されている。これまでのドラッグリポジショニングの成功例の多くは医師や研究者の経験や知識に基づいたセレンディピティに依存していた。そこで我々はこの数年、医薬品に関する多様なデータを用いて体系的に新しい適応疾患を予測するデータ駆動型ドラッグリポジショニングによって、創薬につながる新しい知識・価値を効率的に創出することに挑戦している。本発表では、田辺三菱製薬におけるデータ駆動型ドラッグリポジショニングの研究事例について紹介し、データ駆動型創薬の現状、課題、将来について議論する。
  • タイトル
    ハイブリッド記述子と熱拡散方程式によるkinase inhibitor群に対する大規模高精度予測手法の開発
    講演者名
    武田薬品工業株式会社 日高 中
    要旨
    我々は、キナーゼパネルのような標的と化合物との膨大な組合せのアッセイ結果を学習させ、そこから相互に似た構造を持つ標的間の活性差を精度よく予測する新しい機械学習的予測手法、hybrid-Heat Diffusion Equation (HDE)法を開発した。これは、パネル試験結果に基づき、化合物構造由来およびキナーゼのアミノ酸配列由来の記述子を用い、HDEによる帰納的予測を行うものである。
    まず、データポイント毎に化合物構造由来の分子記述子とキナーゼのアミノ酸配列由来のPROFEAT記述子とを組み合わせたハイブリッド記述子を調製し、キナーゼ×化合物の全データポイントを、拡張された1,549次元のケミカルスペースへ熱源としてmappingする。次いでHDEを用いてmappingされた熱を拡散させることで、ケミカルスペース内の各領域における活性の有無を予測する。これにより、同一キナーゼに対する化合物間の活性差ばかりでなく、キナーゼ選択性をも精度よく予測することが可能となる。
    本hybrid-HDE法の実装において、計算コストを大幅に低減させるようアルゴリズムを最適化し、またGPGPUへ移植して高度に並列化することで、巨大データ群に対する学習が実現した。なお、社内計算機レベルの計算リソースを用い、現実的な時間内に計算可能である。
    本手法を用い、全694万データポイントのパネル試験結果 (349キナーゼ、27,994化合物)について交差検定したところ、AUC 0.946、正答率96.1%を達成した。

マルチオミクス(9/2(水) 9:15〜10:45)

  • タイトル
    遺伝統計学による疾患病態解明と個別化医療への試み
    講演者名
    大阪大学 岡田 随象
    要旨
    次世代シークエンサーに代表されるゲノム配列解読機器の著しい発展とコスト低下により、大容量のオミクス情報が出力される時代が到来しました。アカデミアの枠を超えて、「誰もが自分達のゲノムを知ることのできる社会」が、自律的に構築されつつあります。遺伝統計学は、遺伝情報と形質情報の因果関係を統計学の観点から検討する学問分野です。大規模ヒト疾患ゲノム情報を大容量のオミクスデータと分野横断的に解釈し、社会還元するために、遺伝統計学への期待が高まっています。本講演では、若手人材育成も含めてご紹介できればと思います。
  • タイトル
    空間的な遺伝子発現制御のしくみを探る
    講演者名
    京都大学 沖 真弥
    要旨
    我々は世界中で報告された全てのChIP-seqデータを統合し、その包括的な理解を可能とするウェブサービスChIP-Atlasを開発した。これにより各種組織の分化、遺伝性疾患、また創薬に関わるマスター制御因子を特定した。また我々は光学と化学を融合した新規ゲノミクス技術photo-isolation chemistryを開発した。これにより、多様な細胞タイプが混在した組織において興味のあるエリアに特定波長の光を照射すると、そのエリアだけの遺伝子発現やエピゲノム情報を抽出できる。
  • タイトル
    細胞の反応速度論的描像に基づく統合オミクス解析
    講演者名
    理化学研究所 柚木 克之
    要旨
    トランスオミクスとは多階層オミクスデータに基いて階層間・階層内をつなぐネットワークを再構築し、分子間の因果関係を網羅的に同定する方法論である。トランスオミクスでは細胞内生化学反応系を反応速度式から成る微分方程式とみなし、式を左辺から右辺へと読み進むことによって分子同士の因果関係をさかのぼる。本講演ではトランスオミクスの根底にある考え方や実験デザイン上の留意点を整理し、多因子疾患の分子基盤を多階層ネットワークとして理解する方法論について議論する。

未病・先制医療・健康長寿(9/2(水)14:45〜16:15)

  • タイトル
    数理科学・ 情報科学・生命科学の融合による未病創薬への展開
    講演者名
    富山大学 門脇 真
    要旨
    我々の研究グループは、疾病の状態遷移の臨界状態である「発症前の未病状態や再燃前状態」での医療介入という従来の治療戦略とは違う先制医療的新規治療戦略の構築を目的としている。そのために、生体情報から未病・再燃前状態を数理科学的に客観的に予測する解析手法を構築するとともに、疾病形質が既に獲得された状態での薬剤介入ではなく、未病・再燃前状態での薬剤介入のための新たな未病創薬コンセプトの理論構築とその実証を目指している。
  • タイトル
    コロナの時代の食品データサイエンス、データベースの体系化、深層学習
    講演者名
    奈良先端科学技術大学院大学 金谷 重彦
    要旨
    KNApSAcK Familyデータベースについて、「食」に関するDBを中心に紹介する(図1、メインウインドウhttp://kanaya.naist.jp/KNApSAcK_Family/)。文献情報をもとに世界で活用されている食用生物を地域ごとに収集したデータベースKNApSAcK World DBを構築し、世界の食用生物の活用の特徴の解析が可能となった。このデータベースには、約3万レコードのデータが格納されている。このデータベースに記述されている生物種が生合成する代謝物情報、ならびに、活性情報についての整理を進めている。二次代謝物-生物種の関係についても、現在まで12万レコードとなっている。また、我々の研究グループでは世界に先駆けて、プロトタイプとしてKNApSAcK Metabolite Activity DBの開発を進めている。このようにして、食用生物-天然物-機能性の関係を体系的に把握することができるようになりつつあり、薬膳DBを通して未病としての食用生物の活用指針へも貢献できるようになった。これらのDBの深層学習を例とした活用、開発・データ蓄積についてコロナ・テレワーク時代にどのように拡張しデータを蓄積するかという新たな課題にも取り組んでおり、これについても報告する。
  • タイトル
    沖縄県大宜味村 長寿者たちの食生活と腸内細菌叢
    講演者名
    沖縄工業高等専門学校 池松 真也
    要旨
    私の暮らしている沖縄県の北部に大宜味村という村がある。この村は日本一長寿の村として知られている。3年前からこの村の90歳以上のご婦人達の腸内細菌叢を研究する機会を得た。彼女達へのインタビュー、食事の内容、どのような発酵食品を好んで食しているかなどから、とても興味深いデータを得ることができた。“長寿”を食と健康の観点からお話させていただきたい。

シングルセル(9/3(木) 9:15〜10:45)

  • タイトル
    シングルセル解析による循環器疾患の病態解明と臨床応用
    講演者名
    東京大学 野村 征太郎
    要旨
    心筋症の病態は、遺伝子変異によって誘導される心筋細胞の異常を契機とした心臓恒常性破綻である。心臓は様々な細胞が相互作用して機能する臓器であり、その病態の解明にはシングルセルレベルの理解が欠かせない。我々は、心筋症患者の心筋シングルセルRNA-seq解析により、予後不良の患者のみが有する不全心筋を同定し、その細胞ではDNA損傷が蓄積していることを明らかにした(Nomura et al. Nat Commun. 2018)。さらに臨床情報と分子病理の統合解析により、治療前の心筋DNA損傷の程度がその後の治療応答性・予後を規定していることを解明した(Nomura et al. JACC Basic Transl Sci. 2019)。以前報告したように、LMNA遺伝子変異は重症心筋症の重要な遺伝要因(Nomura et al. Sci Rep. 2018)であり、本発表でこれらを統合した精密医療をどのように実現するか議論したい。
  • タイトル
    群雄割拠のシングルセル情報解析:現状把握とその先
    講演者名
    東京大学 中戸 隆一郎
    要旨
    シングルセル解析は腫瘍を含む生体組織に内在する細胞不均一性の分析や、細胞分化における状態遷移(軌道)を推定する目的において用いられる。現在も続々と新たなツールが発表され続けているが、それでは現在はどのような解析が可能で、何がまだ未解決なのであろうか?本発表では私が参加する新学術領域「細胞ダイバース」での取り組みの一端を紹介しながら、特にバッチ正規化、データ補完、クラスタの自動アノテーションやクラスタ間相互作用などに焦点を当て、現状と今後の展望について議論する。
  • タイトル
    セルオミクス技術の開発と医学生物学応用
    講演者名
    東京大学 洲崎 悦生
    要旨
    多細胞生物は多様な細胞種から構成され、相互に結合・連絡しながらシステムとして機能している。本講演では、このような多細胞システムを解析するオミクス的手法として、3 次元 1 細胞解像度の全臓器・全身解析技術と、本技術を用いた細胞・細胞ネットワーク階層のオミクス(Cell-omics)の実践例を紹介したい。特に近年では、多様な染色剤や抗体に適用可能な 3 次元染色・イメージング法 ”CUBIC-HistoVIsion”の構築に成功した。セルオミクス技術は神経科学のみならず発生・再生研究や癌研究などの幅広い分野での応用が見込まれる。

ケモインフォマティクス(9/3(木)9:15〜10:45)

  • タイトル
    SAR MatrixとAI技術を融合した化学構造のde novo生成法
    講演者名
    株式会社理論創薬研究所 吉森 篤史
    要旨
    SAR matrix(SARM)は、化学構造をMatched Molecular Pairsのルールに基づき2段階のフラグメンテーションを実施することでR-Tableライクな複数のマトリクスを構築し、化合構造の生成とSAR解析を同時に行う手法である。本手法に入力された化学構造は、基本的な構成として、縦軸に骨格、横軸に側鎖構造を並べたマトリクスの要素として表現される。
    我々は、Sequence to Sequence ModelをSARMに適用することで、新たに生成した骨格、側鎖構造からマトリクスを拡張させるDeep SARMを開発した。本セッションでは、キナーゼ阻害剤を対象としたDeep SARMによる化学構造のde novo生成法について紹介する。
  • タイトル
    電子状態の情報を使って天然物から医薬品・食品成分・化粧品成分を探索する:電子状態インフォマティクスの応用
    講演者名
    熊本大学 杉本 学
    要旨
    分子の反応性や分子間の相互作用の起源は、その電子状態にある。この観点から、我々は、化学反応理論や物性理論に基づいて、エネルギー変化あるいはエネルギー的応答量に対応する「エネルギー記述子」を考案し、天然物由来の医薬品、食品、化粧品成分に関する機能予測を試みている。本講演では、関連する機械学習の成果と、それを利用した天然物ライブラリからの機能成分予測を行なった成果について報告する。
  • タイトル
    メタボロミクスによる漢方薬の表現型および代謝物解析
    講演者名
    株式会社ツムラ 大渕 勝也
    要旨
    漢方薬は多くの活性成分より構成される多成分薬剤であり、これらの成分が生体の様々なターゲットに作用することで最終的な表現型(薬理作用)となっていると考えられている。この複雑な作用機序を理解するためには、1) 漢方薬が生体に与える影響、2)漢方薬に含まれている成分とそれらの代謝物の体内動態を包括的に調べる必要があり、メタボロミクスは有用な技術であると考えている。本発表では、メタボロミクスを活用し、漢方薬の生体への影響及び血中の漢方薬由来代謝物について解析した結果について紹介したい。